第2話

 私が私立原磯高校のアイドル、牧神ヒロシ先輩の彼女になったのは、去年の文化祭後に行われたキャンプファイアーがきっかけだった。それに誘われた時は確か、彼女と別れてばっかりで落ち込んでたんだっけ……こんな素敵な先輩をフるなんて見る目ない、と憤る私に、一緒に踊らないかと誘ってくれた先輩。

 そこからアドレス交換して、たまーにデートなんかしたりして。学校じゃ嫉妬の嵐が怖くて付き合ってるのは内緒だけど、たまに廊下ですれ違う時にこっそり目配せとか秘密の合図を送ったりするのが、こそばゆくてたまんないんだよね。

 この頃はだんだん、スキンシップも多くなってきたし、そろそろ……キスとかされるのかな。


 ドキドキしつつも浮かれて事故らないよう注意しながら私は駐輪場に自転車を止め、待ち合わせ場所まで小走りで向かった。うん、五分前……まだメールはしなくていっか。


「そうそう、今バイト中だから。ごめんね? 大丈夫だって、俺には朱里だけだから」


 ん? ヒロシ先輩の声だ。待ち合わせ場所の像の前にはいなかったので、こっそり裏を覗いてみると、頭が見えた。電話中か……今、声かけちゃまずいよね。って言うか、バイト中って言ってなかった??


 プルルル……ピッ


「もしもーし。おう、お前か。うん、今デートの待ち合わせしてんの。何人目って、一応原磯じゃ一人だけだよ。しかもチューすらまだだし。

何かウブっつーかお堅いっつーか……いい体してっから速攻やりたいとこだけど、中身お子様なんだよな。まあ適度に夢見せてその気にさせるからよ、飽きたらお前んとこにも回してやんよ。その代わり、栄子ちゃん紹介してくれよ?」


 ――え?


 プルルル……ピッ


「もしもし? あ、舞奈? 久しぶりじゃーん、あん時は最高だったからまた誘ってくれよ。えっ、今度の合コンは女子大生? しかもお持ち帰りOKって……マジで!? そりゃやりまくりだろ、うんまた大学生のふりして行くから適当に合わせといて。そんじゃ」


 ピッ


「おっせーな、もう十分過ぎてんぞ。何してんだアイツ……上手くラブホまで持ち込む計画台無しだろ、ったくよ」


 プルルル……ピッ


「もしも……美酉!? 何やってんだよ、今日がデートなの忘れてたんじゃねーだろうな?」

『ごめーん、うっかり忘れてた。こんな私、もう彼女失格だよね?』

「いや、遅刻くらいでそんな……今からでも来れねぇの?」

『それが慌ててたせいで、自転車のサドル盗まれてるの気付かずに、飛び乗った時にブッスリ刺さっちゃって、今病院なの。てへ♪』

「てへ♪ じゃなくてよー……どこのジャッキーだよ? 仕方ねぇな、診てもらって何ともなかったらまた連絡しろよな」

『うん、今日はラブホ行けなくて本当ごめんね? それじゃ』


 ピッ


「ったく、どんな慌て方して……って、今アイツなんつった?」

「あら? 病院帰りに偶然通りかかったけど、奇遇ねヒロシ先輩」

「み……美酉!? お前まさか……」

「何が彼女いない、よ。何股かけてんのよこの最低男!! じゃあね、着拒するからもう別れましょう私たち。朱里さんと栄子さんと舞奈さんと、えーっと……その他合コンのメンバーによろしく、さよなら!」

「ちょ、待……」


 ヒロシ先輩が何かを言いかける前に、私はしっかりサドルの付いた自転車でその場を猛スピードで去った。

 バ――カ!!

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