第33話 初お泊まり。俺と同じベッドで寝る権利が取り合いになってるようです。



日が暮れてしまえば、原因調査に乗り出すのも難しい話だった。


結局、俺たちは他に当てもなく、そのままルリの家に泊めてもらうこととなる。


「狭くて、ごめんね。普通の民家だから……」


ルリママはこう申し訳なさげにしていたが、そこを責められるわけもない。


だから誰が悪いというわけでもなく、起きてしまった問題だった。


「ルリの家さぁ、結構狭めなんだよね。だから、ルリの部屋入れても、空き部屋って二つしかなくて。

 ベッドも合計二個しか空いてないって感じなの」


部屋割りだ。

俺は、すぐに手をあげる。


「床でいいから、俺。というか廊下でもいいし、押し入れでもいい」


当然、こうなるべきだろう。

女子陣を差し置いて、俺がベッドを使うなど、おこがましい。


これで話は片付いたと思ったのだが、


「だめだよー、ヨシュア! ちゃんと寝なきゃ、腰痛めるよっ、身体休めないと。めっ、だよ」


お次は、ミリリが手をあげていた。


「うん。うちが床で寝る。ヒールできないし」

「だめだよ、ソフィアちゃん! 色々と役に立ってくれてるもん。

 それに、私は普段から床で寝ることもあるから、余裕だしっ!」

「ルリ的には、本当は三人ともに使って欲しいんだよねぇ。お客様だし!」


熱いベッドの譲り合い、いや床の奪い合いが始まってしまった。

やいのやいの、意見を交換した結果、


「ヨシュア、グーパーで分かれるよっ! それで、同じだった人と同室! ベッドは二人で使うの。

 えへへ、ミリリ賢いっ!」

「賢くないだろ…………! 俺も同じベッド使うのかよ」

「ん? そうだよ? それがどうしたの?」


いや、ほら、倫理的なアレじゃん。


「見て、ヨシュア! ソフィアちゃんとか、めーっちゃやる気だよっ! 満々だよ!」

「えぇ…………」


俺は、恐る恐る幼馴染の顔色を伺う。その口元が少しだけ動いていた。


「絶対うちがヨシュアくんと、絶対うちが絶対うちが……」


……やべぇ、あれは一晩中、匂いを嗅ぎにくる人間の顔だ。


なんとか回避したい。

糸口はないかと俺は懸命に探りだす。


「あら、楽しそうなお話してるわね。私も混ぜてもらおうかしら。狙うは……やっぱり特賞のヨシュアくん?」


……そこへ、まさかの参戦表明があった。ルリママが小躍りして混ざってくる。


待て待て、人妻はマジでまずい。


「えへへ! じゃあ、グーチョキパーに変更だねっ。みんな、いくよっ。せーのっ!」


俺の焦燥とは無縁、ミリリが号令をかける。

手を出さざるを得なかった。


えぇい、運にかけるほかない! 幸い、ルリママの参戦により、五人になった。

つまり、一人あぶれることができる。


俺が出したのはグー。

恐る恐る目を見開けば…………


「チョキって……えぇ、ママと寝るの!? ルリもう十七歳だよっ!?」

「あらあら、まだ十七よ。いいじゃない」


「…………外れ。パーなんて出すんじゃなかった」

「私はグーだっ! ということはー、ヨシュア♪ 今日は一緒に寝ようねっ」


おいおいおい。


一人で寝られる、唯一の当たりくじを引いたのは、ソフィアだった(彼女はハズレだと思っているようだが)。


ミリリは、俺の手をとる。


「じゃあ行こっか! 今夜は寝かさないぜっ」

「まじで言ってる……?」

「うんっ。だってゲームのルールだもん! 守らなきゃ!」

「そんな忠実に守るべきやつなのか、これ。もっと守ったほうがいいものあるんじゃね……」


俺の純情とか。


「もう決まったものは、決まったの! それとも! …………私と一緒に寝るの、そんなに嫌?」

「…………ずるいだろ、それ。嫌、じゃないけどさ」

「じゃあ問題なしだねっ!」


頭ひとつ分ほど下で、ミリリは会心の笑みを見せるのであった。

その瞳があまりに煌めいていたので、ちょっと魅入られたのは秘密だ。



もろもろの支度を整えて、就寝時間を迎える。


「や、やっぱりドキドキするよぉ」


ミリリは、ルリの寝巻きを借りたらしい。


サイズが絶望的にあっていないせい、色々と露出しそうな限界ぎりぎりなんだが……? とくに、胸の盛り上がりなどは、はちきれんばかりだ。


「……俺、やっぱり床で」

「だ、大丈夫だからっ! 一緒のベッド使おっ!」


そんなわけで、ベッドへ二人で入る。


火を消して消灯。

どうにかすぐにでも寝ようとするのだが、心臓がうるさい。


それが、やっと落ち着いてきた頃だ。


「ねぇ、ヨシュア。起きてるでしょ?」


ミリリが、口を開いた。


「…………な、なんだよ」

「えへへ。声が近いの、嬉しいかも」

「そ、そんなことの確認か?」

「ううん、違うよ」


毛布の下、探るようにして、手が握られる。

不安定な熱が流れ込んできた。


逃れようとするが、思いの外力強かった。


「改めて、ヨシュアに会えてよかったなぁって、今実感してたの。

 じわじわ胸が熱くなってね」

「…………それは俺も思うけど」

「じゃあある意味で両思いだっ、えへへ」


ぽん、と腕が一つ跳ね上げられた。


「ど、どうしてそんなこと言い出したんだよ、突然」

「私ずっと一人でレンタル冒険者してきたからさぁ。

 もしそのままだったら、絶対ここに来れなかっただろうなぁって、ふと思ってさ。困ってる人の力になれる機会が増えたんだよっ! 一人より二人、二人より三人。

 君が私の世界を広げてくれたんだ。

 そう思ったら、ちょっとね」


俺は、天井を見上げる。

自然、言葉は口をついていた。


「ミリリのおかげで、俺の方も随分広がったよ」

「そっか、嬉しい! これからも、隣にいてくれる?」


こくり、頷く。

見えていないかと思って隣を振り向けば、


「こ、これが一番近いねっ」


鼻先がふれる距離に、整った顔があった。危うく唇が触れかけて、俺は反射的に顔を反対へ向ける。


もは心臓の鼓動は、ベッドを揺らすまでになっていた。


「あ、あ、明日もしっかり頑張ろうねっ! ヨシュア」

「お、お、おう」


ミリリの方も、緊張し上がっていたようだ。


会話が途切れ、訪れた静寂。暗闇の中に、甘めの空気が漂う。


そこからミリリが寝つくのは、まぁ早かった。

規則的な呼吸、唾を飲む音、それらが間近で耳に入ってきて…………



公言通りといえば、そう。

本当に、俺はなかなか寝付けなかった。


そして、朝起きてびっくり。


「…………ソフィア、いつ入ってきたんだ」

「ヨシュアくんが寝るのを見計らっていたの」

「ってことは、いつから部屋にいたんだ」


黙るソフィア。長い髪に顔を隠すように、俯く。


なんにしても、気づけば両側に花。

そんな状態で眠っていたらしい。

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