第32話 ギフト『無限変化』があれば、ヒールスキルだって習得できちゃうようです!


ルリは、すぐに診療室の外へと駆け出していく。


一人の老婦人を脇に伴って、意気揚々と戻ってきた。

手際良く症状やらを尋ねると、ベッドに寝かせる。


そして、その胸付近に手を当て、


「癒しの光よ、人の子を包め。回復治癒!」


ヒールを始めた。

ぽわっとした白い光に、部屋全体が包まれる。


「私もちょっとは活躍しないとね♪」


ミリリが魔導を用いてバフをかけることで、その輝きは思わず目を瞑ってしまうほどになっていた。


効果も、同様に強化されていたらしい。


「……おぉ、ずいぶん体が楽になったよ。ありがとうね、ルリちゃん。あなたたちも」


治療が無事に終わる。


身体をゆっくりと起き上がらせた老婦人に、俺は水を手渡した。

魔法により、生成したものである。


老婦人は、それをくいっと一息で飲み干す。


喉に詰まらせたりすることもなかったのは、ルリのヒールが、うまくいった証拠と言えよう。


「あんたの作る水は、美味いねぇ。久しぶりにこんなに美味しいのを飲んだよ」


にこり礼を返しつつも、さすがにそれは気のせいだろうと苦笑いせざるをえない。

……たぶん助けてもらったという意識が、そう思わせたのだろう。


一人の治癒が終わると、人を入れ替えて繰り返していく。

順番などの調整は、ソフィアが買って出てくれていた。


手の空いた俺は、ヒールの様子をよくよく観察する。


ひと段落したところで、ルリに声をかけた。


「なぁ、俺にも手伝わせてもらってもいいか」

「……えっ、ヨシュっちが? どうやって?」

「直接、ルリに魔力を流させてほしいんだ。実は、俺も光魔法は使えるんだ。ヒールスキル、習得したいなと思って」

「えぇっ、ルリびっくりなんだけど」


そういえば、これまでは『平均』だと思ってもらうため、全属性を使えることはルリにも伝えていないのだった。


「あれ、ということは………。ルリが教えるのっ、ヨシュっちに?」


ちょっと得意げな顔になっていたので、ここは気分を乗せてやることとする。


「おう、お願いします。ルリ師匠」

「いいひびきじゃーん、それ! いいよ、いいよ! にしても、師匠かー、ルリが師匠かぁ」


効果てきめんだったらしい。

いかにも嬉しそうに、ミリリの肩を揺する。


「いいなぁ私も光魔法ほしかったよ。ヨシュア、分けてー! 光分けて! 私にも、ソフィアちゃんにもー!!」

「属性が分けられるわけないだろー」


彼女は少し寂しげな顔になるが、無属性魔法のレパートリーに長けた魔道士。

彼女こそ、稀有な存在だ。


ミリリを含めて、俺たちは三人でのヒールを進めていく。


いわば、油を注ぎ続けた火と同じ。

ルリの魔法出力が衰えることはなく、順当なヒールがなされていく。


何度めかで、俺は自分のステータスを確認した。


_____________


冒険者 ヨシュア・エンリケ


レベル 375


使用可能魔法属性


火、水、風、土、雷、光


特殊スキル


俊敏(高)、持久(高)、打撃(高)、魔力保有(大)、広範探知(高)、目利き(高)、隠密(中)、【New!!】治癒(中)


ギフト

【無限変化】

あらゆる武器や魔法への適性を有する。

一定以上の条件が揃うと、スキルを習得可能。


武器別習熟度

短剣 SS

長剣 A

大剣 B

弓  B

ランス C

魔法杖 B

……etc


_____________

 

…………ヒールスキルの習得に、成功していた。


うん、ほんと【無限変化】さまさまである。


「ルリ、ありがとう。覚えられたみたいだ」

「はやっ!? じゃあもう師匠終わり!?」

「そうだなぁ、今日いっぱいはルリ師匠って呼んでやるよ」

「や、やぶさかではない!」


ヒーラーが二人になれば、格段にペースは上がった。


ルリの家を訪れていた人たちへの治療が、とんとん拍子で片付いていく。

そして、無事に最後まで捌ききった。


魔力はまだまだ余していたが、さすがに疲労もたまる。ふぅと俺がふぅと息を吐くと、他三人のそれも重なった。


そのときだ。

廊下を早い足音が近づいてくる。部屋の扉が、強く開け放たれた。

一人の少女が、部屋の中へと飛び込む。


「ルリ! あぁ、この人たちが言ってたレンタル冒険者って方ね?」


見た目は、ルリにそっくりだった。

少し服装が落ち着いているくらいで、実によく似ている。


挙動の大きさも、身長の小ささも瓜二つ。

ちょうど俺の腹にめり込みそうな頭の位置だ。


「ルリちゃんのお姉さん?」


ミリリが問うと、その少女は、まぁと頬に手を当てる。


「違いますよ、お世辞がうまい子ねぇ。私は、ルリのママ!」


…………少女ではなく、母だった。


俺たちは驚きから無言で顔を見合わせる。


ルリママは、随分と嬉しそうに、ふふと笑い続けていた。

彼女は、ぱちんと手を鳴らす。


「さ、ご飯用意するから、今日はもう終わりにしましょう? 嬉しいこと言ってくれたから、たくさん用意しちゃう!」


チーズのみならず、美味しいものに目のないミリリが、「はーい!!」と手をあげるまで、そう時間はかからなかった。


少しののち、食事の席へと移る。

父親は、近くの街までポーションの補充やらで出かけているらしく、不在にしているそうだった。


「それで、いつからこんなことになったんです? なにか心当たり、とかは?」


ロリママ、いや、ルリママの奮発した手料理に舌鼓を打たせてもらいながら、話を聞くこととする。


「豚のチーズトマト煮……! 魅惑のコンボ! もぐもぐ」


若干、ミリリの咀嚼音が気になるけれど。

うん、実際ルリママの料理はなかなかのものだが。

いつものことだと、俺はルリママと目を合わせた。


眉を少し落として、彼女はため息を吐く。


「それが、ここ最近急にこんなことになったんです。それで、ルリには帰ってきてもらったのよ。

 でも、不思議で。私たちはなんてことないのに、町の一部の人だけがあんな感じで揃って病気になっちゃって」


……たしかに、見たままの話だ。二人ともピンピンしている。

ルリパパも、街へ出向くくらいだから、元気そのものだろう。


「なにか変わったことがあったりしました?」

「いいえ、思い当たりません。普通に暮らしていただけで……。

 神獣さまの怒りだ〜、なんて言ってる老人の人もいましたけど、それは迷信だと思います」


ルリママは、懐かしげにやや目を細める。


「今は幽霊町みたいですけど、元々は結構、畑作がさかんで、活気ある町だったんです」

「こ、このお料理の野菜も、この土地のものを使っているのですか」


ソフィアが口を挟む。

ルリと瓜二つの見た目のママさん相手だ。


こういう時は黙りこくるのが通例だが、少し話しやすかったのだろう。


ちょっと前のめりになって、ルリママは首を縦に振る。


「はい。大きな山の麓にあって、水も緑も豊かですから。元々は空気も綺麗なんですよー! それがなぜかこんなことに……。

 あ、そうだ。隣の町も、同じような状況になってるみたいなの」

「隣町まで、ですか」


色とりどりの料理が並んだ食卓の上に、うーんと黒めの唸り声が落ちてくる。


「まぁまぁ、とりあえず考えるのは後にしない? この感じだと、すぐに解決しそうにもないしっ!」


ミリリの明るい声が、それを引き裂いた。

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