第24話 頑張る理由
ある日の閉店後。
「じゃあアーリアちゃん、僕は先に帰らせてもらうね。あんまり無理しないように」
「はい、お疲れ様でしたっ! おやすみなさい!」
雫はそう言って、店を後にした。
ここからは、いつも通り自主練の時間。
ドリンク作りを教えてもらってからというもの、アーリアは毎日店に残って練習している。
「よしっ!」
気合いを入れたアーリアは、ベストのポケットの中から折り畳まれた紙を取り出し、カウンターに広げた。
(うん、まずはこのチャイナブルーっていうのを作ってみよう!)
作るカクテルが決まったことで、まず細長い円筒形のコリンズグラスを手に取った。
「えーっと、果物は……使ってない。じゃあ――」
メモを見ながら言葉を漏らした後、冷凍庫から自身が魔法で作った丸い氷を取り出し、トングを用いてグラスの中に沈める。
(次は『ライチリキュール30m l』。ライチリキュールは確か……)
アーリアは後ろの陳列棚に目をやり、その中からライチリキュールを探す。
「あ、これだ!」
やがて手に取ったのは、DITAと書かれた透明なボトル。
これはライチリキュールの中で最もメジャーな銘柄だ。
そのライチリキュールをメジャーカップを用いることで、しっかりと30m l量り入れた。
練習の甲斐あって、以前のようなぎこちなさは見られない。
「それで次は、『ブルーキュラソー10ml』っと」
言いながら、彼女は青い液体が入ったボトルを手に取り、グラスへ加えた。
「最後にグレープフルーツジュースで満たせば……」
冷蔵庫から取り出したグレープフルーツジュースでグラスを満たす。
そしてバースプーンを手に取り、慣れた手つきで酒を攪拌した。
(できたっ! これがチャイナブルー!)
アーリアはカウンター席に座り、水色の液体で満たされたグラスを両手で持った。
それを口に運ぶと、
「美味しいっ!」
ライチの甘さとグレープフルーツの酸味が口に広がる。
(甘くてさっぱりしてて美味しいなぁ。それに見た目も可愛いし。女の人には特に喜んでもらえそう!)
もう一口飲んだ後、アーリアはレシピを書いてある紙に感じた感想をそのまま書いた。
いずれ自分が客に説明できるようにするためだ。
その後、チャイナブルーをゴクゴクと飲み干すと、今度は別のカクテル作りに取り掛かることにした。
これはただ酒を飲みたいからではない。
早く酒を覚えて、雫の役に立ちたいという思いからだ。
それともう一つ、別に理由がある。
(私も早くマスターみたいに……!)
これまでアーリアは、特にやりたいことや目標といったものを持っていなかった。
冒険者になったのだって、両親が冒険者であったために自然とその道を選んだだけに過ぎない。
そんな中、やっと見つけた自分がなりたいもの。
それが雫のような客を笑顔にする職業――バーテンダーだった。
ビビアンに連れて来てもらったあの日。
出された酒が美味しかったのもそうだが、何より雫と話していると心が落ち着き、嬉しい気分になった。
それは他の客も同じみたいで、雫と話している最中、皆幸せそうな顔を浮かべていた。
自分もあんな風になりたい。
その一心でアーリアは眠い目を擦りながら、今日も練習に励んだ。
☆
「ふわぁ……」
その頃、2階で雫が目を覚ました。
喉の渇きから無性に炭酸が飲みたくなって、台所の冷蔵庫を開けるもストックはゼロ。
(仕方ない、店から少し取ってこよう)
雫は目を擦りつつ、店の鍵を持って家を出た。
そうして階段を下り、扉に鍵を挿そうとしたところ――
「あれ?」
扉の隙間から光が漏れていることに気付く。
雫はそーっと扉を少しだけ開け、隙間から中の様子を見てみると、
「テキーラ・サンライズは、まずテキーラを入れて……」
もう深夜になるというのに、まだアーリアが残って練習をしていた。
その光景を見た雫は穏やかな笑顔を浮かべ、静かに扉を閉める。
(アーリアちゃん、頑張ってたな。これだけ練習を重ねているなら技術も上達してるだろうし……よし!)
雫はあることを決心し、2階の自宅へと戻った。
仕方なく水で喉を潤してから、再びベッドへ倒れ込む。
その後、ものの数秒で夢の世界へと舞い戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます