第23話 お金がない!
★★★(テスカ)
「トリポカさんのおかげでだいぶ理解が深まった気がする」
ヨシミさんはそうウチの事を褒めてくれた。
こっちとしても教えたかいがあるってもんやね。
最初から難しい、分からへんって思うから上手く行けへんところもあると思うんよ。
と……ここで、もよおしてきてしもた。
渋茶を飲んだのが効いてきたんかな?
この家ってトイレあるんやろうか……?
「ゴメン、ちょっとトイレを……」
ウチがそう言うと、クローバさんが
「どうぞこちらです」
案内してくれはった。
「今日はありがとうございます。私からもお礼を申し上げます」
廊下を歩きながら、クローバさんにもお礼を言われた。
この人とも色々あったけど、人間としては決して悪い人やない。
それが、こうしていると良く分かる。
「いえいえ。先にお礼してもろてますし。このぐらい当然ですよ」
ウチが手を振りつつそう言うと
「……この間は本当にすみませんでした」
もう、それはええですから。
★★★(ヤツフサ二世)
ノライヌエンペラー3匹全てが、ノラハンターに敗れてしまった。
この間初出撃したキモデブ様は、特にショックが大きかったようだワン。
「あんな技、反則だろうワン……頭部さえあれば成立する浄化技……」
先日、ノラハンターは爪先、顎、脇、乳首を持たない存在は浄化できないと。
首と手首しか無いエロマニアを作り出して対抗しようとしたワンが。
ノラハンターたちが、新しい浄化技を編み出して、その弱点を克服してきたらしいワン。
新しい浄化技は、頭部さえあれば成立する。
これは……どうしようもないワン。
頭部のないエロマニアは作りようがないワン。
必ず、どこかしらが頭部の扱いを受けるのは避けようのないことワン。
何故なら、目の無いエロマニアを作りようがないからワン。目の無いエロマニアは何も見えない……。そして目がある部分が頭部扱いを受けてしまう。
これは避けようのないことだワン……。
だからもう、構造的な理由でノラハンターを打倒することは不可能……だワン。
「大体、バチバチぱんち、ボコボコヘッド、ガンガンヘッドて無茶苦茶ワン……島木〇二に謝って欲しいワン……」
めそめそと泣きながら、キモデブ様。
残る2匹は大きく頷きながらそれを聞いていて。
「やりたい放題だワンね……」
「搦め手を使うのはもはや止めた方がいいのかもしれないワン……」
と、ゲーハー様、ヒゲ様。
搦め手……それはつまり、ノラハンターたちの隙を突くような、クレバーな作戦の事ワン?
「ノラハンターたちの正体は分かってるワンか?」
「それも分からないワン。俺たちがエロマニアを誕生させると、どこからともなくやってきて、勝手にエロマニアを浄化させてしまうワン」
ヒゲ様の問いに、ゲーハー様が答え、キモデブ様も頷く。
「じゃあ、寝込みを襲うのも無理、というわけワンね……」
ふーむ、とヒゲ様。
そこに
「……もうこうなったら、全力で叩き潰すしか無いのではないかワン?」
ゲーハー様。
「全力、全力だとワン……?」
ヒゲ様の言葉に、ゲーハー様は頷き。
「……次は俺が行くワン。DLメモリの真の力を、ノライヌエンペラーの真の力をあいつらに思い知らせてやるワン……」
俺には分かるワン。失敗続きで女神マーラの失望の気配が、肌で分かるんだワン……このまま手をこまねいていては、女神の加護を失ってしまうワン……。
ゲーハー様の言葉はとてもとても、重かったワン。
「分かったワン」
「信じているワン。必ずや戦果をあげてくると」
ゲーハー様の覚悟を、残り2匹も真正面から受け止めたワン。
こうして。
ゲーハー様が不退転の覚悟で出撃することが決定したのだワン……。
★★★(ユズ)
私はユズ・ミカン。
最近、このフラワーガーデンで住み込みで働くようになった従業員だ。
今日は、フラワーガーデンのご主人様のお屋敷に、アイスだいふくを届けるための作業員として派遣されたのだけど。
今日はお屋敷で誕生日会でもあるのかしら?
そう、思っていたら。
まだ寺子屋に通ってる子たちが、テスト勉強をするために、集まって来てて。
ご主人様の御令嬢に勉強を教える立場の子に、お礼としてアイスだいふくをご馳走すると。
そういうなりゆきらしい。
寺子屋……懐かしいな。
私は行商人の娘だったから、父さんだけが街から街を渡り歩いて。
寺子屋に通ってる9年間、私は父さんがいつも居ない家庭で育った。
あのときは自分の家の環境を変だとは思わなかったけど、世間的にはどうだったのかな?
その後、寺子屋を卒業したとき、私は父の行商についていくようになったから、そこからは家族ずっと一緒だった。
一緒だったのよ……。
……
………
寺子屋時代の友人たち。
卒業後に私も父さんの行商について回るようになったから疎遠になったけど。
あの子たちはどうなんだろうか?
アイスだいふくを出したときの彼女たちの反応、とても良いように感じたから。
ずっとあのままであればいいんだけど。
そう、他人事ながら思ってしまった。
(ちょっと偉そう?)
だって、子供時代の友情が大人になっても続いているって素敵じゃない。
私は色々あって、それが叶わなくなったから、余計にそう思う。
「よし、洗い終わり!」
……実は、ずっと器具を洗っていた。
アイスだいふくを作るためのボウル、へら、その他調理器具を。
井戸の傍で、ピカピカになるまで、磨くように。
アイスだいふくの作り手の教育で、使った調理器具は使用後ピカピカになるまで洗う事が義務付けられているので、これは当然の行いだった。
やれることが多い方が稼ぎが良くなるから、こういう資格は率先して取ってる。
ちなみにこの短期間でアイスだいふくの作り手として認めて貰えるのはなかなか無いらしい。
私はそこそこ優秀なのだ。自慢するわけでは無いが。
ピカピカに洗い終わった器具類をケースに片付け、店の方に戻る準備をする。
今日の仕事も上手くやれた。明日もきっと上手くやれるだろう。
私はそう、思っていた。
「もしもし」
そのときだった。
私は男性に声を掛けられた。
ちょっと卑屈そうな笑みを浮かべた男性だった。
誰だろう……ちょっと前に見た覚えがある気がするんだけど。
あんまり背が高くなくて、へらへらしながらやけに頭を下げまくる……この人。
その疑問は、続く言葉で文字通り氷解する。
「氷の代金、いただいておりません」
あ……
そっか、この人、氷屋の従業員さんだ!
フラワーガーデンがアイスだいふく用の氷の調達先として選定してる、氷商人のところの従業員さんだ!
いつもは店の方でまとめて買うんだけど、今日だけ小分けでお屋敷の方に届けてもらったのよ!
氷を受け取るとき、顔を1回合わせていたのに、忘れるなんて。
うっかりしてたわ。
確か、アイスだいふく製造セットの中に氷の代金を5000円を……
私は製造セットのケースの蓋の一部を開けた。
お金を入れた封筒を入れておくのにピッタリのスペースだったから、そこに入れておいたのだ。
それを渡さなきゃ。
開けた。
中を見た。
何も入っていなかった。
空っぽ、スッカラカン。
え……?
停止する私の思考。
何で何も入って無いの?
確かにここに入れたよね?
そして。
私の心臓が縮み上がった。
どうしよう……?
氷の代金5000円が無くなっちゃった!?
お店のお金の5000円が……!
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