第21話 初の合体技や!

 地を蹴って、まずヒカリさんが飛び出した。

 雷の精霊魔法・飛翔の術を使用して、そのスピードのまま、まっすぐに宙を飛ぶ。


 そして。

 拳を振り上げて。


「バチバチ・ぱーんち!」


 同じく雷の精霊魔法・雷神剣の術を拳に掛けて、電撃を伴ったパンチを繰り出す。


 ……元々、雷神剣の術ってのは武器に雷を纏わせる術らしいんやけど。

 素手で使うときは、拳にそれがかかるんやて。


 願ったり叶ったりや!


 エロエロエロエロッ!


 ヒカリさんのバチバチぱんちを受けて、エロマニアがビカビカ光りながら感電。

 そして動きが完全に止まる!


 電撃の衝撃で動かれへんようになってるエロマニア!



 今こそ、新しい浄化技を見せるときや!


「いくでイザナミ!」


「ええペルセポネー!」


 再度呼びかけ合い、ウチらふたりはおりんスティックを取り出し、如意棒モードを発動させる。


 おりんスティック・如意棒モード・ダブルや!


 いくで!


「ボコボコヘッド!」


「ガンガンヘッドや!」


 同時に掛け声。


 ヒカリさんは宙を飛びながら。

 ウチは地面を駆けながら。


 バチバチぱんちで動けなくなったエロマニアに突撃する!


 おりんスティックを振り上げて、行動不能に陥ってるエロマニアに肉薄するウチら!


 そして!


 動けんようになったエロマニアの頭を、2本の如意棒モードのおりんスティックで、滅多打ちにした!



 ボコボコボコッ!


 ガンガンガンガンッ!



 これが新・浄化技ボコボコヘッドであり、ガンガンヘッドなんや!


 元のポコポコヘッドや、カンカンヘッドがどういう技か聞けずじまいやったけど、多分こんなような感じやろ!

 ウチらで話し合って、意見が一致したんやもん!


 実際と多少違ってても、ようは受け継いだ気持ちが大事なんや!

 それさえあれば浄化技は成立する!


 ノラハンターふたりがかりによる、取り囲んでの滅多打ち。

 事前にバチバチぱんちにより行動不能に陥らされてるから、回避することが極めて困難な、実に完成度の高い浄化技や!


「それただの集団暴行だワン! それのどこが浄化技だワーン!!」


 エンペラーが何か言うとるけど。

 雑音は気にしたらいけへん……!


 みい!


 エロマニアアアアアアアアアア!!


 打つ音に水気が混じってきたあたりから、エロマニアの身体が輝き始めて、浄化が始まったで!

 やっぱりこれで正解やったんや!


 ヒカリさん! ウチらやったんやで!


 光が収まると、出っ歯で眼鏡の裸のおっさんが、気を失って倒れとった。


 これで事件解決や!


「……何でそれで浄化できるんだワン……こんなの絶対おかしいワン……」


 捨て台詞を残して消えていくエンペラー。

 また、ウチらはエンペラーを逃してしもたけど、気持ちは晴れ晴れとしとった。


 ウチとヒカリさんの、合体技やったからね。


 この浄化技。


 ウチとヒカリさんの、絆が深まった気がしたんや……。



 そして。


 エロマニアを浄化したウチらは、葱を買ってヒカリさんのお家に戻った。


 そして鯉こくいうもんをはじめてご馳走になったんやけど。

 鯉は泥臭いって話聞いてたんやけど、ヒカリさんの家でご馳走になった鯉はそんなこと無かったんや。


 そういや、サトシ君「真水でしばらく飼って泥を吐かせた」って言うてたっけ。


 ひと手間かけるだけで、食材の味って変わるもんなんやね。


 そういやオカンも


「内臓料理はそのまま調理すると臭いけど、塩水で茹でると不思議なくらい臭いが消えるんや」


 そんな事を言うとったな。



「姉ちゃんの友達の人」


 そうして。

 鯉こくをご馳走になった後やった。


 縁側で1人でおったら、サトシ君が話しかけてきたんや。


「なんやねんサトシ君」


 昨日の事があったから、なんかウチの弟みたいな妙な感覚が出来て来てて。

 言ってしもてから、ちょっと「馴れ馴れしかったかも」と思たんやけど。


「出刃包丁の切れ味、良いって言ってもらえた!」


 杞憂やったみたいで、嬉しそうにそう報告をしてもろた。


「良かったな。頑張ってたもんな」


 褒めてあげたら、へへ、と嬉しそうに笑って。


「父さんが腕のいい研ぎ師だから、長男の俺がそれぐらいできなくてどうする、って感じだよ」


 ……夜中に起きだして、蛍の光で必死になってたくせに。

 カワイイ、とおもた。



 そして、そのまましばらくそこで笑い合ってたら。



 唐突に



「ねえ」


「何?」



 サトシ君が改まった感じで話しかけて来た。


 なんやろ……?


「姉ちゃんとどうやって友人になったの?」


 ちょっと、興味津々半分、期待? 半分。

 そういう、ちょっと表現しづらい表情やったわ。


 ……どうやって友人になったか、か。


 ちょっと、なんて言うたらええんやろな……?


 それを言うたら、ウチの生まれの事を言わなアカンねんけど……


 この子、知ってるんやろうか?


 言うていいもんやろか……?


 でも、キラキラした目で見とるなぁ……。


 ……

 ………


 よし。


「……ウチの家な。実は帰化人やねん。カンサイ地区からの」


 ああ……言うてしもた。


 ちょっと不安があったわ。


 ひょっとしたらこのキラキラした目が曇るかもしれへん。

 そうおもたから。


 でも……


 嘘吐くこと、誤魔化すこと。


 それがな、ウチにはできへんかったんよ……。


「知っとるか? カンサイ地区?」


 言うたら、サトシ君は首を左右に振る。

 あんまりそんな事、考えへん子なんかな……?


 でも、言うたわ。


 ……本当は知らん方がええのかもしれへんけどな。


「カンサイ地区は……ゴール王国の隣にある貧しい地域の事や。そこは土地が貧しくてなぁ……」


 食べ物がちゃんと育てへんから、よく飢饉が起きて……飢饉分かるか?

 御飯が食べられへんって事や。


 そのせいで、国がゴール王国みたいに長く続けへんねん。

 国が建っても、すぐに飢饉やらなんやらで、あっという間に国が潰れてまう。


 そのせいで、お金が無くて、物々交換で生活してる地域やねん。


 ……え、物々交換が分からへん? お金を使わんと、モノの交換で買い物をするってことやね。


 大変? そうやね……。


 そしてウチは、サトシ君にウチの家がそんな地域から幸せになりたくてゴール王国に逃げて来た元カンサイ人なんやと教えた。

 分かってるのか分かってへんのかよく分からんかったけど、頷いて聞いてくれたわ。


「そしてそういう地域やから、ガラ悪い奴多いんや。そのせいで、カンサイ人はゴール王国民に嫌われとる」


 そしてウチは核心部分を話した。


「だからな……寺子屋で給食費が無くなったとき、ウチが真っ先に犯人やと疑われた」


 そのときの事を思い出すと、今でも悔しい。


 でも……


「アンタの姉さんは、そんなときに、たった1人でウチの事をかぼてくれたんや。ウチは泥棒なんかせえへん、言うて……」


 そこからやね。


 そのときの事を思い出すと、今でも嬉しい。


「そうだったんだ……」


 サトシ君はウチの話を全部聞いて、理解してくれたみたいやった。


 で、こう言うてきた。


「……ウチの姉ちゃんさ、友達を家に連れて来た事、無いんだよね」


 ……え?


 この間、お金持ちの知り合いにうたけど、あの人友達違うん?


 ちょっと混乱したのでそう言うたら「ヨシミちゃんは幼馴染だから」言われた。


 ……別枠なんや。


 でも……そうなんや。

 ヒカリさん、勉強できるし、綺麗やし、性格悪くないから友達多そうや、思ったのに。


 家に連れてきたこと、無いねんな……。


 ひょっとしたら、逆に「英雄の子」で「とっても優秀」やから。

 人が寄りつけへんのかも知れへん……。


 そう、ウチが思ってたら、サトシ君に言われたわ。


「だから、これからも姉ちゃんと仲良くしてあげてね」


 ……そんなん、もちろんや。


 こっちが頼みたいくらいやで!

 そう言うたら「ありがとう、姉ちゃんの友達の人」って言われた。


 ……その呼び方、ちょっと語呂悪いな。

 よし。


「テスカや」


「え?」


「ウチの名前」


 ウチは訂正を要求した。

 ちゃんと名前で呼んでほしいわ。サトシ君。


「ありがとう、テスカさん」


 ウチはおもた。


 ……この関係、ずっと続けばええなぁ。


~3章(了)~

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