秋口の畑仕事
さぁ、サクラコと共に畑仕事だ。
俺は事前に買っておいたダイコンとタマネギの種を持って、庭先に作った小さな畑にやってきた。
「ジャガイモとは種が違うんだね」
サクラコが種を見ながら言う。
ダイコンとタマネギの種は真っ黒で胡麻を少し大きくしたくらいの大きさだ。以前植えたジャガイモは種芋から植えたので、サイズ感の違いに興味を示したらしい。
「そうだな。ジャガイモは芽が出た種芋からだったからまんまジャガイモだったからな。それに比べると今回のダイコンとタマネギは小さいね」
「ジャガイモには、種って無いの?」
「いや、種はあるよ。だけど、種芋の状態から植えたほうが簡単だから種からは植えなかったんだよ」
そう、実はジャガイモにも胡麻粒サイズの種がある。ジャガイモを収穫せずにそのまま放っておくとその内実がなり、そこに種が作られる。確か、ミニトマトみたいな実だったかな。そこからできる種はダイコンやタマネギの種とは違い、白っぽい種になる。まぁ、俺も実物は見たこと無いからなんとも言えない。
「へぇ~、そうなんだ。今度ジャガイモ作る時は種まで作ろうね!」
「そうだな。次植えるのはいつがいいのか調べとくよ。そんじゃ、ジャガイモの話はここまでにしてダイコン植えるぞー」
「あいっ!」
さて、ダイコンの種まきだ。
俺とサクラコはペットボトルのキャップを片手に、土をほじっていく。こうすることで種を植える場所の位置だしを行いつつ、その後にその空いた穴に種をまく事が出来る。今の俺が知ってる知識の範囲内では一番効率の良い方法だ。当然広い畑ではこんな作業をチマチマとしていては時間がいくらあっても足りないだろうからもっと良い方法があるんだろうけど、正直我が家の畑はとても小さいので効率なんて考えなくても良いんだけどね。
「おぉーい、喜多くーん」
サクラコと共に土に穴を開けていると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきたので振り向くと、声の主は猫村さんだった。
「猫村さん、こんにちはー」
「そっち行ってもいいかいー?」
「どうぞー」
我が家の敷地外から声を掛けてきた猫村さんは、俺が敷地内への立ち入りを許可すると俺たちのもとへとやってきて、土弄りをしていてしゃがんでいた俺達と目線を合わせるかのようにしゃがんでくれた。
「喜多くん、サクラコちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちはー!」
俺はいつも通りに、サクラコはとても元気に挨拶をする。
「畑に何か植えるのかい?」
「はい、ダイコンを植えようかと」
「春ダイコンだね。この土地は養分が沢山あるからきっと美味しいダイコンができるはずだよ」
農家のお墨付きであれば本当に美味しいダイコンができそうだな。俺の技量でしっかり育つかだけが心配だ。
「おや、芽出しはしなかったんだね」
「芽出しってなにー?」
「あっ」
……すっかり忘れていた。
事前に種を水に浸して芽を出させる芽出し。種によっては芽が出ない物もあるので、この時点で選定が出来るし種を無駄にしなくて済む方法だ。
「芽出ししなきゃダメでしたかね?すっかり忘れちゃってたんですけど」
「いや、そんなことは無いよ。ダイコンは芽出しをしなくても比較的芽が出やすい作物だからね」
「なるほど……じゃあこのまま植えちゃってもいいんですね」
やはり現役農家の話は勉強になるな。俺の付け焼刃の知識ではまだまだ足りないという事がよく分かったよ。
「ねー!芽出しってなにー!」
……そろそろサクラコが癇癪を起こしそうなので芽出しについて説明してやる事にしよう。さて、どう説明したものか。
「サクラコちゃんは芽出しを知らないんだね。種はね、乾燥してるどどんなに頑張っても芽は出てこない……成長しないんだよ。もちろん土に植えれば芽が出て成長するだろうけど、植えた種全てが芽が出るとは限らない。だから前もって芽が出る種か出ない種かを判断するために土に植える前に数日間水に漬けて芽を出させる。これが芽出しだよ」
俺が説明する前に猫村さんが説明してしまった。俺が説明しても良かったが……まぁ、俺が言いたい内容を全て説明してくれたから良しとしよう。
「うーん……種の、良い子と悪い子を土に植える前に判断するって事?」
「うん、そういう事。サクラコちゃんは理解が速いね」
おぉ、今の説明を自分の解釈で理解するって事はしっかりと内容を理解していなければ出来ない事だ。やはり地頭が良いだけはあるな。
「因みに、水に漬ける以外にも濡らしたキッチンペーパーの上に種を置いておくだけでも芽出しはできるよ」
「そうなんだー!」
へぇ、そうなのか。水分さえあれば芽出しはできるって事か。今度、キッチンペーパーを使って芽出しをしてみよう。
「あぁそうだ」
そう言うと猫村さんは懐から紙に包まれたものを取り出し、俺に見せてきた。
紙の中身は、真っ黒な種。ダイコンの種よりもひとまわりくらい大きいだろうか。一体、これは何の種だろうか。
「これは……?」
「アスパラガスの種だよ。育ててるのから種が取れたから、喜多くんにあげようと思ってね」
「へぇ、猫村さんが育てたやつの種ですか。アスパラガスかぁ……育て方も知らなければ、どんな感じに成長するのかも知らないですね」
「ふふっ、どう成長するか知りたければここに種があるんだから育ててみればいいんだよ」
おぉっ、確かにそうだ。
「ただ、育てるとしたら室内でね。外だと寒くて枯れちゃうと思うから」
「なるほど、分かりました」
アスパラガスは寒いと育たない植物のようだ。
そういえば、日光に当てないで育てるとホワイトアスパラガスになるとかも聞いたことがあるな。室内であれば日光に当てないように育てやすそうだから、挑戦してみようか。
「後は自分で調べてみると良いよ。育て方にも色々あるからね」
「はい、分かりました。わざわざありがとうございます」
「それじゃあ私はこれで。今度米ぬか持ってくるからね」
そう言うと猫村さんは帰っていった。
あの人、俺にアスパラガスの種をあげるためだけに来たのか。本当に、ありがたいな。
「アスパラガスってどれくらいで育つの?」
「どうだろうなぁ。後で調べて、室内で育ててみようか」
「うん!」
それから俺達は問題無くダイコンの種をまき、ついでにプランターにタマネギの種もまき終えその日の畑作業は終了した。
種まき作業中はずっと中腰での作業だったから、流石に腰が痛くなってきた。
今日はもうゆっくり休みたいが……犬山さんとの電話があるんだよなぁ……。さてさて、いったい俺はどんな説教をされるのだろうか。
この後の事を考えながら腰をさすっていると、脇腹をコツンと優しく小突かれた。
見てみるとそこにはクロエ。構ってほしいといつもこうして頭で小突いて来るんだよな。
「どうしたクロエ、構ってほしいのか!今日もかわいいなぁ!」
少しテンション高めに対応してやる。
わしゃわしゃと頭を撫でてから、背中、脇腹と全身くまなくマッサージをしてやる。
気持ちそうに目を細めるクロエを見ると、やはり動物は良いな。癒される。庭に目を向けると所々剥げた芝を駆けまわってる烏骨鶏集団がいて、それを追いかけるサクラコがいて。
そろそろ動物を増やしても良いかもしれないな。アリスが増えたばかりだけど。
そんな事を思いつつ、俺は庭先で繰り広げられている小さな平和を噛みしめるのだった。
●作者の独り言
明けましておめでとうございます!
引き続き今年も投稿していきますので、よろしくお願い致します!
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