奮闘、庭づくり編 第五話
サクラコと一緒に料理をする事になった。さて、何を作ろうかな。
「手、洗ったよ!」
サクラコが洗った手をブンブンと振りながらアピールしてくる。手を拭いてから振りなさい。
「そこにタオルあるからそれで手拭いてな」
「あいっ!」
俺は近くにあるタオルを指さしながら指示する。サクラコの返事は元気がいいなぁ。
今俺の家にある材料は大量のジャガイモと玉ねぎ、後は夏野菜が少々だ。冷蔵庫にはこの前買ったベーコンが残ってるし、ジャーマンポテトでも作るか。
「よし、サクラコ。今日はジャーマンポテトを作るぞ」
「なにそれ?」
「昨日ジャガバターを食べただろ?それよりも味が濃いやつだ。美味しいぞ」
「美味しいなら作る!」
美味しくなかったら作らないのか……?
まぁいい。ひとまず作ってみよう。
「まずはこのジャガイモと玉ねぎに土が付いてるから、水でしっかり洗ってくれ。できるよな?」
「できる!」
サクラコにジャガイモと玉ねぎを数個渡すと、丁寧に洗いだした。
「しっかり土落とすんだぞー。じゃないと、できた料理に土が混ざっちゃうぞー」
「綺麗にする!」
おー、張り切ってるなぁ。
サクラコが洗っている間に俺は、ベーコンを適当なサイズに切っていく。
「孝文、綺麗になったよ!」
綺麗に土を落としたジャガイモと玉ねぎをサクラコは見せてきた。
「おー、上手に洗えたなぁ。じゃ、これを切るからちょっと待っててなー」
サクラコからジャガイモと玉ねぎを受け取り、ジャガイモは2cm角に切り、玉ねぎはくし切りにして細かくする。
「わたしもそれやりたいー」
「包丁は危ないからまた今度な。サクラコ、このジャガイモをそこの透明な皿に入れてくれるか?」
「わかったー!」
サクラコは指示した通り、ジャガイモをボウルに入れていく。
「いいね、上手だぞ」
「やったー!」
結構サクラコって聞き分けがが良いんだな。正直、あれやりたい、これやりたいって騒がれると思っていたから意外だった。
「できたよ!」
「おー、偉いぞー。そしたらこれをレンチンしていくぞー」
「れんちん?」
「レンジでチン……あー、レンジで温めていくぞ」
なんでレンチンって言うのかな。今まで特に疑問を抱かずに使ってきた言葉だな。でも実際なんでこんな不思議な言葉が生まれたんだろうな。
俺はサクラコがボウルに入れたジャガイモを500Wで3分、レンジで温める。
「ぐるぐる回ってるね!」
「そうだなぁ、ぐるぐるだなぁ」
「なんで回ってるの?」
「そうだなぁ……レンジってな、温かい風が出てるんだけど、それをしっかり当てるために回ってるんだよ」
「そうなんだ!」
実際には風が出ているわけでは無く、食品内に含まれる水分をマイクロ波で振動させる事で水分子がお互いに擦れ合って生まれた摩擦熱で温まる、とかそんな感じだったが、これをサクラコに言っても理解されないだろう。ひとまずは熱風ということでお茶を濁しておこう。
「孝文っ!」
「うん?」
「レンジから!チンって!音なったよ!!」
あぁ、もう温まったか。考え事をしていると時間が過ぎるのは早いな。
「音が鳴ったのはな、レンジが『温め終わったよー』って教えてくれたんだよ」
「へぇ!レンジさん偉いね!」
「はははっ、そうだなぁ、レンジさんは優秀だなぁ」
子供の無邪気な発言は面白いな。レンジさんは偉い、か。そんな事考えた事も無かったよ。
「次は何するの?」
「次はな、炒めていくぞ」
「炒める?」
「フライパンで焼く、って事だ」
レンジからジャガイモを取り出し、オリーブオイルを引いたフライパンでジャガイモ、玉ねぎ、ベーコンを炒めていく。
「わたしもそれやってみたい!」
言うと思ったよ……さて、どうしたものか。火傷させるわけにもいかないが、そこまで難しい作業でもないからなぁ……
「よし、じゃあやってみるか」
「やったっ!」
「じゃ、そこの椅子をここまで持ってきてくれ」
「あい!」
サクラコは指示通り椅子を持ってくる。
「じゃ、そこに膝立ちしてな」
「こう?」
なぜ椅子を持ってきたかというと、今調理している台はサクラコの身長では少し高すぎるからだ。流石につま先を立ててやらせるわけにもいかないので、椅子に乗ってもらう、ってわけだ。
「そうそう。そしたら、俺がフライパンを持っておくから、サクラコはこれで炒めてくれ。いいか、フライパンは熱いから絶対触るんじゃないぞ」
「わかったー!」
俺がフライパンを支え、サクラコがターナーで炒める。これなら余程のことが無い限りは火傷しないだろう。
「ぐるぐる混ぜるの?」
「そうだな、強くやっちゃうと零れちゃうから、優しく混ぜるんだぞ」
「あい!」
サクラコは恐る恐る、といった感じだったがしっかりと食材を炒めていく。おぉ、結構上手いじゃないか。
「上手いぞ。その調子で混ぜていこうな」
「あいっ!」
最初は恐る恐るだったが上手いと言われて自信が付いたのか、さっきよりも軽快に炒めていくサクラコ。
子供はコツを掴むのが早いな。いい具合に炒められている。
玉ねぎが透明になってきたので、塩コショウを追加する。ほんとはここでマスタードを入れたいところだが、子供の舌には少し辛いだろうから控えよう。
「いいにおい!」
「よし、そろそろ大丈夫そうかな。サクラコ、もういいぞ」
ジャガイモの形が少し崩れてきたので、もうそろそろ良い頃合いだろう。俺は火を消してサクラコからターナーを受け取る。
「もうその椅子片付けちゃっていいぞ」
「あいっ!」
サクラコがいそいそと椅子を元あった位置に戻している姿を横目に見ながら、俺は爪楊枝でジャガイモを刺して焼き加減を確認する。
スルッと小気味良く刺さった。うん、完璧だ。
フライパンから皿に移して、ジャーマンポテトの完成。まだ食べてはいないが、きっと美味しいだろう。
茶碗を2個取り出し、昨日の晩から保温にしたままだったご飯をよそう。ほんとはこんなに長時間保温しちゃダメなんだけどね。電気代もかかるし、味も落ちるし。
「サクラコ、できたぞー」
「やったー!孝文、はやくはやく!」
サクラコは待ちきれんばかりに手をバタバタとさせながら催促してくる。自分が手伝ってできた料理だからな。はやく食べたいだろうな。
俺はジャーマンポテトとご飯をテーブルに置き、椅子に座った。
「よし、じゃあ食べるか」
「たべるー!」
サクラコは箸を持つと、行儀良く「いただきます!」と言い食べだした。こういう所作を見る限り、サクラコは育ちが良いんだよな。どうしてこんなにお転婆な子になったんだろうか。
「孝文!すごい!ものすごく美味しいよ!」
「そうか、よかったな。しっかり噛んで食べるんだぞ」
俺も食べてみたが、サクラコの言った通りとても美味しかった。やはり、美味しいジャガイモを使うと一段と味が引き締まるな。
俺たちはそのまま食べ続け、あっという間に完食してしまった。
「どうだ、サクラコ。満足したか?」
「お腹いっぱい!美味しかった!」
「そうか、よかったな」
サクラコは本当に満足したような表情をしている。こっちに移住してから、食に関しては俺も満足だな。やはり美味いものを食べると生活が充実する気がする。都会にいた時は外食できる場所が多かったが故に、自炊なんてほとんどしなかったからな。
「うー……」
「どうした、サクラコ」
唐突にサクラコが唸り出した。表情もどこか曇っている。
「もっと遊びたいんだけどね、まだ宿題終わってないの……」
宿題?あぁそうか。まだ8月末だから小学生は夏休みか。
「夏休みの宿題、終わってないのか?」
「うん、後でやろう、って思ってたらできなくて……」
「だったら、早く帰ってやりなさい。もうすぐ学校も始まるんだろ?」
「……明日も、来ていい?」
「もちろん良いが……来るなら午後な。午前中は買い物に行ってるからいないはずだ」
明日は晴れの予定なので、ホームセンターに柵と小屋の材料を買いに行くつもりだ。どういった物にしようかはまだ書き出してはいないが、頭の中ではもう図面は完成している。
「宿題持ってきてもいい?」
「あぁ、いいぞ。分からない所あったら教えるくらいはできるはずだ」
小学校低学年の勉強であれば、いくら高卒の俺でも分かるはずだ。きっと教える事もできるだろう。
「わかった!じゃあ明日も来るね!」
「了解。帰ったらしっかり宿題やるんだぞ?」
「うんっ!」
「気をつけて帰れよ」
「あいっ!孝文、またねー!」
そうして、サクラコは帰っていった。
今日は朝から色々あったせいでちょっと疲れたな。でもこの疲労感は、庭作業をして感じるものとは違って、どこか満足感のあるものに感じた。
「さて、図面でも書くかなぁ」
俺は伸びをするしながらそう言うと、図面を書くためにパソコンを立ち上げに行くのだった。
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