楽しい人質生活
ヌン
第1話 トラブル発生!
「消えた⁈ 」
韓国・ソウルの芸能事務所で会社代表は素っ頓狂な声を上げた。
「消えたってどういうことだよ」
自社ビルの最上階に位置する執務室をウロウロと歩きながらスマートフォンを耳に押し当て、報告を聞く。
通話の相手は、インドシナ半島南部に位置する立憲君主制国家・カンボジアにベビーシッターとして派遣させている女で、定期報告のタイミングではない着信に嫌な予感はしていたものの、想定外の内容に思わず声が裏返ってしまっていた。
ベビーシッターは、一昨日、首都プノンペンの繁華街で銃撃戦があり、派遣先の母親が巻き込まれた可能性があると言う。
「なに、銃撃戦⁈ 詳細を報告しろ」
代表は聞き取りにくい国際電話に耳をすませる。
ベビーシッターは、母親から友人と出掛けるので帰るまで子守を依頼されたが、その母親は帰宅予定時刻を過ぎるどころか朝になっても帰らなかった。
その為、その友人に問い合わせたところ、繁華街のクラブを出たところで銃声が聞こえ、逃げ惑う人波で見失ったまま連絡が取れなくなっていると、友人の言葉を伝えた。
代表は青ざめ、震える声を出した。
「お、おい、その銃撃戦はギャング絡みだって報道されているあれか?」
『そのようです。病院や警察に問い合わせましたが母親と身体特徴の
「消えたって事か……」
『はい』
「……拉致された可能性もあるな」
『はい。しかし、理由が分かりません』
「これだから、あいつはトラブルなんだよ!」
代表はイライラしながら、周囲の情報収集と目撃者探しを指示する。
「子供は無事だな? よし、信頼できる人間に預けろ。お前はトラブルの…… 母親の捜索に集中しろ。目立つ動きはするなよ」
プッと、しかし、気持ちはガチャンと通話を終わらせた。
代表が『トラブル』と呼ぶその母親は、かつてこの芸能事務所の医務室で働いていた看護師だった。
わけありでカンボジアに渡り、出産してシングルマザーとなったが、その子供の父親が韓国を代表するスーパーアイドルのジョンだとは社内でも知る者はいない。
いや、正確にはジョンはもちろん、同じグループのメンバー4人と彼等を練習生時代から支えて来たメイクスタッフの1人は秘密を共有していた。
(あいつらに話しておくべきか? ジョンにだけでも…… あー、仕事を投げ出して飛行機に飛び乗りかねないか)
メンバー達の成功でなんとか会社は存続しているが、弟分としてデビューした3人組は新人賞こそ獲れたものの、爆発的な人気とは言い難かった。
1番人気のジョンの隠し子が発覚すればスキャンダルは世界を駆け巡り、メンバー達も会社も再起不能になる。
代表は悩んだ末に、ベビーシッターからの次の報告を待つ事にした。
(クソ、トラブルめ。ここ数年は大人しくしていたと思ったら…… 何やってんだ)
その日、トラブルことミン・ジウはプノンペン国際病院の給湯室で同僚に泣き付かれていた。
「お願い〜。ジウは英語がしゃべれるでしょ? どうしてもこのクラブに行きたいのよー。分かるでしょー?」
「でも、子供が……」
「ベビーシッターに預けてさー。ジウだってたまには遊んだ方がいいわよ〜。飲み会にも出ないんだから」
同僚は、ある米国人俳優の大ファンで、その俳優がプノンペンにクラブをオープンさせた。
オープニングセレモニーの抽選に当選したと興奮していたのは昨日で、しかし招待状が英語で書かれており、英語の読めない同僚にカンボジアの公用語であるクメール語に訳してあげた結果、今に至っていた。
招待状には服装の注意事項と共に、簡単なインタビュー撮影とアンケートに答えるのが条件と書いてある。
当然、英語でだろう。
「お願い! 彼に会えるチャンスなのよ〜。ねえ、ジウ〜、お願〜い」
ミン・ジウは、お願い攻撃に弱かった。そして、元々、アルコールは
(たまには、いいか…… )
「分かった。でも、早く帰るから」
「ありがと〜! ジウ、大好き!」
同僚はミン・ジウに抱き付いてハグをする。
そして、念を押すように人差し指を立ててみせた。
「ジウ、いつもの汚い服で来ちゃダメよ。ハリウッドスターの店なんだからね」
「毎日、洗濯していますよ?」
「そういう意味じゃないの! パンツ禁止! スカートで女らしい格好をして来てね!」
えー、面倒臭いと思うが友人の為に我慢をした。
【あとがき】
ようこそ、拙作にお越し頂き感謝致します。
誤字脱字、賛否両論、なんでも受け止めます!
キャラの関係性がわかりにくい場合は質問して頂けると幸いです。
(本当は、『〜トラブル〜黒のムグンファ』を読んでいただきたいですが無理は申しません)
よろしくお願い致しますm(_ _)m
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