第5話

「大丈夫ですか?」

 心配そうな声の主は渚さんだった。

「大丈夫です。あんなパンチ痛くも痒くもありませんよ!」


 カッコつけるように笑顔で答え立ち上がった。

「でも、頭をぶつけてました…こういうのは後から影響が出てくるって言いますし…」

 渚さんは少し背伸びをして頭を打った箇所を撫でてくる。少しヒリヒリとする。


「今日はそろそろ時間だし、あなたたちは上がっていいわよ。でも拓哉くんは一人暮らしよね。確かに後から症状が出たら大変だわ。悪いけど渚ちゃん、せめて家まで拓哉くんを送っていってくれないかしら」


「わかりました」

「了解しました…って家!?確かに歩いていける距離ですが遠いですよ!?それに渚さんには迷惑ですし…」

「私は大丈夫です。着替えたら外で待っていてください」


 俺の言葉を無視して渚さんはそう言うと更衣室へ向かっていってしまった。


 待たせるわけにはいかないと急いで着替えて待っていると、制服姿の渚さんが現れた。この制服は美園学園の制服か。キラキラした共学の学校で有名なところだ。白いシャツに、ベージュのベスト。短いスカートが彼女たちのカラフルな青春を体現しているように感じる。


「さあ、帰りましょう。とりあえず拓哉くんについていきます」


 俺は自転車を押して渚さんと共に帰り道へを歩き始めた。





 会話がない。そもそも女子と帰るのも初めてで一体何を話したらいのかわからない。

 後ろを歩く渚さんにこっそりと目を向けると渚さんはまだ少し心配しているような表情をして歩いていた。


「「あの…」」

「「お先どうぞ…」」


 気まずい…再び沈黙が続く。

 俺たちは少し早足になって歩き続けた。


「じゃあ、俺の家ここだから」


 いつの間にか着いていた。アパートの玄関を潜ろうとする。


「あの…待ってください!連絡先交換しましょう…!」

「連絡先なら持っていますけど…」

 携帯の連絡先を見る。うん確かに渚さんの名前があるな。


「それは業務用で、今言ってるのはプライベートなやつです!」

「は、はい…」


 勢いに押されて連絡先を交換した。『ナギサ』これが渚さんのプライベートなアカウントか。思わずにやけそうになる頬に力を入れる。


「で、では!」


 急にどうしたんだろう…疑問に思う俺を置いて、渚さんは急いで去っていった。




 家に帰り、夕飯を取ることにする。今日は作るのが面倒だな…そう思って冷凍のパスタを食べる。最近の冷凍はレベルが高くてついつい頼ってしまうことが多い。

 ごちそうさま、そうつぶやいて食器を流しに入れる。一人暮らしのご飯には慣れたが、やはり寂しいことには変わりない。


 少し腹を落ち着かせてから風呂に入る。シャワーを浴びると、少しぴりっとした痛みが走る。

「あ、ちょっとぶつけた所切れてるな。頭だし、一応明日バイト休ませてもらって病院に行くか」


 よほど疲れていたのだろうか。湯に浸かり目を瞑るとウトウトと眠りについてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

"男子校"生は美人な彼女の夢を見る みくり @kesuke0408

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ