7話 パワーアップ!

振り返った先にいたのは、けたたましい咆哮を上げるケロベロスっぽい魔物。

犬の首が3つついていて、眼光は鋭い赤。


うーん……?

隠密も分析も成功しないのはレベル格差が激しいから?


って、考えてる場合か!!


「ちょ、嘘、こんなの聞いてない!戦ったら確実に死ぬ!逃げるしかない!!」

「キュルキュル……」


シグがぶるぶる震えている。

怖いよな!!俺も怖い!このままだと食われちまう!



全速力で逃げる俺だが、向こうのケロベロス(仮)はなんせ俺の3倍くらいの体長なわけで……


走っても走ってもすぐに追いつかれてしまう。


ケロベロスは素早く横に移動すると、鋭い爪で切り裂こうとしてきた。


「やめてくれよぉぉ!!俺、弱くても一応魔王様だぞ!」


俺は間一髪で攻撃をかわす。

ケロベロスの攻撃が当たった地面は大きくえぐれ、砕けた紫水晶が散らばった。


ひぃ、こんなの食らったら1発で死んじまうよ!魔王がこんな走り回って逃げてるとか、情けねぇ……



うーん、木の上に登れればケロベロスはきっと登ってこれないだろうけど……


俺は周囲を見回しながら走る。

すると、急に右足の裏に痛みを感じた。



「うぁぁ、いってぇ!」



足裏に尖った石が刺さったみたいだ。あぁ、やっぱり靴がないのは大問題だな。HPが3減少した。



ケロベロスはそんな俺たちを嘲笑うかのようにこちらを目掛けて炎のブレスを放ってくる。


攻撃は避けるので精一杯だ。はやくなんとかしないと……



あ!この木なら登れそうだ。



俺はツタが絡まりあっている木を見つけ、一目散に登れそうな太い枝まで登る。

この木は結構な高さがある。



ここにいればなんとかやり過ごせるか……?



チラッとケロベロス(仮)の方を見てみると、よだれを垂らしてこちらを伺っていた。


よだれ!?


もしかして俺たち、レアな種族だから狙われやすいとか……??

食べたらものすごく美味しい……とか??

だとしたら最悪だ。


俺は唾をゴクリと飲み込み、このあとどうするかを考えていた。



そのとき、



「グァァァ!!バァ!」



シグがこちらを見て何かを訴えかけている。



「どうかしたのか?」


「グ〜!」



シグが指さした方向には、水色の大きな木の実がひとつなっていた。



「おお、なんだこれ、食えるのか?」


「グ!」


コクリと頷くシグ。

シグもなにかしらのスキルを持っているのだろうか。


「分析してみるか!」


『スキル《分析》成功しました。

【レチルの実】味はあまりしない。食べると経験値が3,000,000もらえる。滅多にお目にかかれない代物。闇市では高値で取引されている。』


「うおお!最高じゃねぇか!食べるしかねぇな!!シグと半分こ!」

「グルル〜!」


俺たちは手で実を半分に割ると、豪快にかぶりついた。


本当だ、全然味がしない。


食感はすこしシャリシャリしていて、食べ物に例えるなら梨に似ていた。



『経験値1,500,000を獲得しました。

レベルが20になりました。各種能力が大幅にアップしました。魔法 《キュア》《シャドウ》《シャインインパクト》《マジックシールド》を覚えました。進化が可能になりました。』



「進化!?木の実で経験値貰えて進化できるとかめちゃくちゃついてるな!」


「ググ!」


『進化しますか?進化後、形態名【ゾルア】

おそらく:闇魔法、光魔法を習得しやすい』


おそらくってなんだおそらくって。

魔王だから進化したらどうなるのか、あまりわかっていないのかもしれない。

勘だけど、進化した方が強くなれそうだ。



「グルル〜!!」

突然、シグの身体が光り始めた。


シグも進化するを選択したみたいだ。



「俺も進化する!」


『進化を開始します。所要時間、30秒』



少しずつ目の前が白くなっていく。

どうなるか楽しみだ。進化って胸が少し高鳴るよな!


俺は流れに身を任せて目を閉じた。



30秒程たって、目を開けると……

そこには少し大きくなったシグがいた。大きさは中型犬くらい。まだ暖かそうな毛が身体全体を覆っているが、足先には先程と違って鋭い爪が覗いていた。背中には小さな翼が生え始め、しっぽもかなり長くなったようだ。


「おお!!大きくなったなシグ!」

「グァ!」


『スキル《分析》成功しました。

シャードラLv.1 総合レベル→20

小柄だが、伝説の暗黒竜の子供であり、見たものは生きて帰れないと言われている。強力な火魔法とブレスを放つ。』



『【ゾルア】に進化しました。

ステータス:?????』



俺の方も手のサイズがかなり大きくなったようだ。見た目は10歳くらいにはなったかな。そして、もうひとつ変わったことは……

頭に角が生えてきたことだ。羊の角みたいな、グルグル渦巻いた真っ黒な角が2本。


まだケロベロス(仮)とはレベル差結構あるけど、こっちは2人いるんだ!これならなんとかなる気がしてきた。


「魔法使ってみたいな、シグは使い方わかるか?」

「グルル」


俺の問いかけにシグは頷くと、爪に魔力を込め始めた。



鋭い爪が青い炎を纏い始める。なんとも綺麗な炎だ。



シグはそのままケロベロスに向かっていき、爪で大きくケロベロスの喉を切り裂いた。



「ギァァァア」


苦しむケロベロス。皮膚が焼け焦げている。相手のHPは見えない……

俺が目を細めて分析を無理やりにでもしようとしていると、


『スキル《分析》がレベル2になりました。

精密度、成功度があがりました。


《ケロベロス》

紫水晶の塔、門番。視界に入ったものは排除しないと気が済まない。アルバート公爵の忠実な犬。

HP→152→120』


スキルがレベルアップしたみたいだ。



しかもシグの攻撃、結構効いてるじゃないか!


だが、俺はそこで少しひっかかった。



アルバート公爵の忠実な犬……?

ケロベロス……お前、ペットだったのか?



……倒して大丈夫なのか?



いや、でも倒さないと俺たちが食われる………




うーーん、仕方がないよな!先に手を出してきたのはそっちだ!!



さぁ、立ち向かうんだ!

俺とシグならきっとやれる!!




そう思ったのが甘かったのかもしれない_____



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