3話 地獄へ
建物の中はまるで地獄のようだった。熱い。息が苦しい。木造の建物だったらしく、柱が燃えて天井が落ちてくるのは時間の問題だ。
俺は口元を抑え、煙をなるべく吸わないようにして階段を上がる。
足元が火に触れてしまって服に少し火がついているのか、皮膚がヒリヒリした。
俺が進む足取りには全くの迷いがなかった。
……俺はこの時点でおかしいことに気がついた。まるで俺は奏斗がどこにいるのか、どこを通れば火傷を負わずに済むか知っていたみたいに動いている。
そう……2階の、奥の部屋だ。
そこに奏斗はいる。
「奏斗、助けに来たぞ」
扉を蹴破ると、そこには水色の髪をした小学生くらいの少年が火から逃げるように部屋の隅にいた。
どうやら右足を怪我しているみたいだ。ズボンから血が滲んでいる。
俺はそっと奏斗をかかえ、そこまで迫る炎から逃げるようにして部屋の窓を開ける。
これしか生き延びる方法はない。
ここから飛び降りるんだ。
そうすれば俺も奏斗も助かる。これで、ハッピーエンドに変わるはずなんだ。
……俺は一体、何を考えている…?
まるで俺が俺じゃないみたいだった。
「ゲホッゲホッ、零兄さん!僕、あなたのことを知らないのに、知ってるんだ」
奏斗は咳き込みながら俺の瞳を覗き込むようにして話した。
「あぁ、俺もだよ……俺は君を知っている…どうやら俺にとって、奏斗は命をかけて助けなきゃいけない大切な存在らしい」
初対面なのに、わけわかんないよな、と笑う。
奏斗と話すのは久しぶりだったようだ。話したことがないはずなのに、懐かしい気持ちでいっぱいになる。
「奏斗、俺と一緒にここから飛び降りよう。それしか助かる方法はない」
「……わかった!」
覚悟を決めた奏斗は、ぎゅっと目をつぶった。
……そのとき
ガタガタと音を立てながらこちらの方向に火柱が倒れてくる。
「っ……!!」
咄嗟の判断だった。このまま窓に登って飛び降りても間に合わない!!でも奏斗だけなら……
俺は奏斗を窓から落とした。
下に消防隊員が待ってくれている。きっと奏斗は足の怪我だけで済むはずだ。君は生き延びなくてはいけない。この世界では___
「生きろ!奏斗!」
そう叫んだ後、背中に衝撃が走った。
燃え盛る火柱が直撃したのだ。
「兄さん!!!!」
「うぐっ……」
前のめりに倒れ込む俺は、あまりの熱さに悶えた。
「上に兄さ……は……た……!!!」
奏斗の叫び声が徐々に聞こえなくなってきた。馬鹿野郎、あんまり叫ぶと喉が痛くなるぞ。
柱に頭を打ったせいで、視界がぐらつく。
じわじわと背中が焼ける感覚がする。
あぁ、動けない。
思うように息ができない……
いつもの金曜日の悪夢を見ている感覚だった。
いや、夢の数十倍痛みを感じる。
どうか奏斗が……
"弟のカナト"が助かりますように。
俺はそっと意識を手放した。
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