第22話『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』 

鳴かぬなら 信長転生記


22『俺の妹がこんなに可愛いわけがない!』  





 男になんかならない。



 話を聞こうと腰を据えた時、妹の影はベンチの下に蟠って(わだかまって)いたが、今は後ろの植え込みの中ほどまでに伸びている。


 俺は、人が無言でいることを許せない。


 心にもないことを言う奴はもっと許せない。ごまかしとか美辞麗句とか社交辞令とか、紙くずみたいなことを言う奴な。


 佐久間信盛、明智光秀、将軍にしてやった足利義昭とかな。


 下郎なら、とっとと切り捨てている。


 だが、市は特別だ。


 こっちに来てからは憎まれ口ばかりだが、苦労かけた妹だから仕方がない。


 その妹が、やっと口にしたのが、この言葉だ。



「男になんかならない」



「分かってる、だから転生学園の方に行ったんだろが」


「分かってないよ、あたしはね、女のまんま力を付けて、来世でも市って女に生まれ変わるんだ」


「女大名にでもなるのか」


「んな、メンドクサイものにはならない」


「普通の女の子ってやつか?」


「アハハハハ」


「どうした?」


「信長の妹が普通の女の子やれるわけないじゃん」


「どうしたい?」


「生まれ変わっても、浅井長政と結婚する」


「え、そうなのか?」


 ちょっと意外だ。市の不幸は長政に嫁いだことに始まっている。


 長政は美濃から京に向かう真ん中に居る。天下を狙うためには、その京への道の安全を計らなければならず、長政の浅井家を懐柔しておくことは必須なのだ。


 だから、長政に嫁がせたのは100%の政略結婚だ。


 来世で嫁ぐなら、浅井だけは勘弁してほしいはずだろう。


「あんた、ぜんぜん分かってないよ。あたしを政略結婚の犠牲者としか思ってないでしょ」


「ちがうか?」


「男女の仲なんて、きっかけはどうでもいい。結果よ結果」


 結果は、不幸な離婚だったろうが? 何が言いたい?


「……いいよ、言葉にしたら、なんか卑しくなりそう」


「卑しくなってもいい、俺に話せ」


「ほんとにいいよ。あんたが、こんなに話聞いてくれたの初めてだし。こうやってさ、兄妹で人生相談的に向き合ってくれただけで、今日はいいよ。信長にしては上出来」


「であるか」


「あんた、前世じゃ、こういう煮え切らない言い方したら切れてたよね。佐久間のジイとか光秀とかは、それでしくじったんだもんね……ね、日が傾いて、ちょっと涼しすぎ……」


「家に帰るか?」


「ね、なにか暖かいドリンク買ってきてよ、飲みながら一番星出るの待ってようよ」


「お、おう」


 なんだ、このシミジミ感は……そう思いながらベンチを立つ。


「シャンプー変えた?」


「いや、風呂にある、おまえと同じやつだぞ」


「そ、そう?」


 そう言うと、妹は後れ毛を鼻の下に持ってきて匂いを嗅ぐ。


「ちょっと、あんたの嗅がせて」


「よ、よせ(#'∀'#)」


 クンカクンカ


 なんの遠慮も警戒もなく俺の髪を嗅ぐ……う、なんだ、この可愛さは、は、反則だろ!


 お、俺の妹がこんなに可愛いわけがない!


「これ……お姉ちゃんの匂いだ!」


「あ、ああ?」


「そうだよ、女になって転生してきたから、前世みたく汗臭くないんだ……うん、間近で見ると、女のわたしが見ても、ゾクッとするような美人なんだ、ね、もっと顔見せて!」


「よ、よせ!」


「アハハ、なんだか嬉しくなってきた(^^♪」


「よ、よせ、紅茶でいいな、紅茶で!?」


「うん、あんたと同じのでいい」


「ま、待ってろ」


 アタフタと公園入口の自販機に向かう。


 ゴトンゴトンと出てきたペットボトルを掴み上げ、ベンチの妹を振り返る。


 なんだ?



 妹は、同じ制服を着た外人ぽい少女に詰め寄られている。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る