第8話『三人で飯を食う』
鳴かぬなら 信長転生記
8『三人で飯を食う』
昼休み、信玄、謙信と連れだって食堂に行く。
信玄も謙信も意外にまじめで、授業中の無駄話はもちろんのこと、休み時間も次の授業の移動や準備に専念して、無駄話をしない。
「食堂、いっしょに来るか?」
四限終了のチャイムが鳴ると、信玄に聞かれた。
「ああ」
返事をすると、信玄と謙信が前を歩きだし、俺は、それについていく。
信玄はかっちりした肉おき(ししおき)のいい体格で、胸の大きな女だ。
胸だけが大きいわけではないが、そこに目が行ってしまうのは、俺自身が女になって間がないせいかもしれない。
髪は、ボブと云うのだろうか。肩までの髪をフワリとさせて、並の女よりも逞しい肩を荘厳する房飾りのようだ。
階段に差し掛かり「暑い」と言って上着を脱ぐと、意外なほどに腰は細い。
腰に差した扇子を開くと、どういう仕掛けか『風林火山』と書かれた軍配になる。
謙信がクスリと笑ったところを見ると、川中島の一騎打ちで使った軍配なのかもしれない。
謙信は、長い黒髪をポニーテールにしている。
ポニーテールというのは、チョンマゲを伸ばしたようなものだが、謙信に男くささは無い。
耳の後ろからうなじにかけて見える肌は、さすが越後生まれ。抜けるような白さで、ゾクリとするような色気がある。
信玄のようにカッチリした体格ではないが、露出した首筋や、短めのスカートから伸びた脚は小気味よく引き締まり、うっすらと娘らしい肉が載って好ましい。
「ははは、こちらに来て、しばらくは相手の変わりように目を見張るものだ。信長も、しっかり見ておるな」
信玄の背中が笑う。
「観察は、戦国武将第一の要諦ね」
「今度、いっしょに風呂に入って見せっこしよう」
「いっしょに風呂か?」
「謙信とは、よくいっしょに入っている」
「ふふ、お隣同士だからね」
こいつら大丈夫か?
食堂に入ると、ちょうど券売機が空いたところだ。
高校の学食は混雑してあたりまえ、すんなり券売機の前に立てたのは運だろう。
運も才能の内。
信玄は『ほうとうランチ』 謙信は『越後蕎麦定食』
俺は『きしめん定食』だ。
狙ったわけではない、その三つにしかランプが灯っていなかったのだ。
「少しずつ分けっこしよう」
信玄の提案で、湯呑に小分けする。
「きしめんはペラペラで頼りないなあ」
「ほうとうは太すぎるぞ」
「喉越しは、蕎麦が格別でしょ」
やっぱり意見はあわない。
それでも、三人とも健啖家。
やっぱり、それぞれ美味しいということになり、それぞれのメニューをもう二人前ずつ追加して、越後・甲斐・尾張の味覚を楽しんだ。
ほぼ同時に完食して、一人三食分ずつの食器を積み上げると、茶をすすりながら信玄が切り出した。
「信長、儂たちの部活に入れ」
「なんだ、藪から棒に」
「儂たちは、並み居る戦国武将の中でも別格だ。互いに研鑽して、来たるべき転生に備えなけらばならんと思う」
「今度は天下をとるつもりか?」
「そのつもりだが、それは今度転生してからの互いの励み次第だ。取りあえずは、ここでの研鑽と切磋琢磨を実り多きものにするために協力しようということだ」
「この学校は、部活を必須にしているわ、必須なら、わたしたち三人で部活にしてしまえばいいと思うのよ」
「三人の部活でなにをする?」
「喋ったり、いっしょに遊んだりだ」
「時々は勉強するかもしれないけどね」
「まあ、前世でやっていた同盟のようなものだ。そう言えば、信忠君は残念なことをしたなあ」
思い出した。
息子の信忠と信玄の娘の松姫は結婚させることになっていたのだ。
「儂が死んで、一度は破談になったが、信忠君は、松姫を思い続けてくれていた」
「ああ、本能寺の事が無ければ迎えを出していたはずだ」
「うむ」
「……美しい話ね」
「そういう通じるものを大事にして、お互い伸びて行こうというのだ」
「同盟みたいなものだから、他の部活に入るのも構わないわ。信玄なんか、土木研究部と農業研究部と仏教研究部に入ってる」
「謙信は?」
「毘沙門同好会とか豪雪対策部とか、他にもいろいろ」
「で、二人の部活とは?」
ドン!
「「天下布部!」」
両雄がテーブルを叩いて立ち上がった。
なんだと……!?
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で打ち取られて転生してきた
熱田大神 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
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