第34話 今日、卒業します
「伊織は……これから俺達がなにをするか、知らないわけないよな?」
「……………………」
「そこに加わるってことは…………
悔しそうに唇を噛む伊織。俺のムスコを嚙み千切ってやるという意を表しているのか。
さすがにそれは勘弁だ、許容できる痛いじゃない。
仲間外れにするみたいで心苦しいけど、お互いの為にもここは心を鬼にするしかないか。
俺は伊織の瞳を真っ直ぐ見据え、数秒してから口を開いた。
「嫌なら帰ってもいいんだぞ? というか、その様子だと多分無理だと思うから帰った方がいい。なぁに心配しんぱいしなくてもすぐに伊織を卒業させに行くから。OBになった俺がな!」
「――――ッ!」
血相を変えて俺の元まで詰め寄ってきた伊織は、勢い任せに手を振り上げた。
「……い、伊織?」
が、その手が俺の顔めがけて振り下ろされることはなかった。
伊織の右手が力なく下ろされる。彼女の視線は俺の足元辺りに向けられている。
「…………がいいから」
「ん? なんて?」
「…………初めて同士が、いいから」
「え、いや初めて同士がいいなら後日違う奴とでいんじゃね? なにも今日じゃなくたって」
「だから! ……そうじゃなくて……」
言葉はそこで終わる。
伊織は地を見つめたまま黙ってしまった。
これでいい……これでいいんだ。
「それじゃ――」
「――堀北さんは連れて行くわ」
俺が別れを告げようとした瞬間、横から出てきた南沢が断固とした口調で言いながら伊織の隣に並んだ。
「今の伊織には無理だろ、どう考えても」
「だとしてもよ、堀北さんは絶対に連れて行く。というより、帰るべきなのは私の方よ。空気を読んでね」
「いやいや、お前は帰っちゃダメだろ」
「…………これだけ
憐れむような表情をして伊織に声をかけた南沢。
伊織はどこか居心地悪そうにしている。
鈍チン? 誰のムスコを指してるのか知らんが少なくとも俺のじゃないな。俺のムスコはかなり敏感な方、どちらかと言えば
「堀北さんも一緒に来る、これは
「……まぁ、確かに勃ちっぱなしだな。そろそろ休憩したい」
「あら、気が合うわね。それじゃあ行きましょうか……堀北さん」
「あ、うん」
歩みだす南沢。その後を伊織がついて行く。
「…………長い夜になりそうだぜ」
彼女達の後ろ姿を見つめながら俺はそう零した。
お父さん、お母さん、今日――俺は卒業します。
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