命日

野口マッハ剛(ごう)

秘密

 曖昧な記憶だが、田中良太郎には秘密があった。妹の早紀とは十二歳離れている。良太郎にとっては可愛い妹だろう。良太郎はしっかり者で、学校では人気者の優等生。同級生であった山田耕治は同窓会に今顔を見せる。中学時代の三年生一組の同窓会。現在のかつての同級生たちも三十歳だ。山田はみんなと笑顔で話し始める。最近はどうしているの、仕事は? 等々。でも、ここに昔の人気者で優等生の田中は居なかった。成人式に再会したのが最後なのだ。山田と田中は仲が良かった。山田は同窓会に田中が来ていないことを残念に思う。

 山田はお酒を一気飲みして三杯目のところで意識がもうろうとなり始める。ヤバい、飲み過ぎた、山田が床に倒れ込む。みんなが山田の顔を覗き込んでいる。大丈夫か? そう言うみんなの声が遠のいていって意識が途切れる。

 目が覚めたと同時に立ち上がれないほどに体がだるい。ぼんやりと山田は天井を見つめる。目だけを動かして周囲を見たが誰も居ないようだ。おいおい、置き去りにするなよと山田は考える。そこに、あの田中良太郎が顔を覗き込んでいる。一瞬、山田はドキッとする。話そうにも山田はまだお酒が残って頭が回らない。けれども、何かがおかしい。なぜ今は田中だけがここにいるのだろうか。

 田中がぶつぶつと言っている。聞き取れない。山田は何とかして立ち上がるも強烈な吐き気で嘔吐する。山田は田中の妹である早紀もいることを確認する。しかし、山田はこの兄妹に何も言えない。田中良太郎の秘密を思い出す山田。

「山田? 思い出したか? やっと、この時が来た。長年にわたり、よくもまあ生きているものだ。妹の早紀も苦しんでいる」

 山田は青ざめている。息も絶え絶えになっている。

 曖昧な記憶が、少しずつ呼び戻される。田中良太郎と妹の早紀は一家心中でここに居るはずがなかった。それなのに、どうしてだろうか。山田が過去に見たもの。それが山田の脳裏に焼き付いて離れない。

 この兄妹は俗にいう近親相姦の関係だった。山田は見てしまったのだ。見てはいけないものを。それは田中兄妹からは言わないでとお願いされているのに、ある日に学校のクラスメートに言ってしまったのだ。それは田中一家心中の引き金につながってしまった。

 フラフラと、やっと立っていられる山田に、田中兄妹が人の力とは思えないほどに首や腕などを締め付けてくる。

 ここで山田の意識は戻った。ガバッと跳ね起きる山田。全身が汗だくだ。夢、だったのか? 山田は部屋の壁に掛けてあるカレンダーをじっと見つめる。今日は同窓会の日。

 田中良太郎の命日。

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命日 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

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