第2話 拝啓、ガチャを引きました

『名もなき島へようこそ。白夜さん。

 あなたにはこの島で生活してもらいます。

 ちゃんとご褒美も準備しておりますので、事後承諾になりますがご了承ください。

 島での生活を行うにあたって、何らサバイバル経験のないあなたにプレゼントがあります。

 それは「健康な体」です。なんと風邪も引きません』


 指南書の1ページ目にはこんな文章が記載されていた!


「まじかあ。何で僕が……だけど、悪いことばかりじゃないか」 


 もし指南書に書かれていることが本当ならば、だけどね。

 喉から手が出るほど欲しかった。毎日毎日願った健康な肉体を手に入れたとなれば、自分の夢がかなったと言っても過言ではない。

 続いて指南書の2ページ目を開く。

 

『この島にあるものは全て利用して頂いて構いません。

 ・推奨事項

 小屋で休むこと

 井戸水を利用すること

 カピーと夜を過ごすこと

 海の書、島の書を埋めていくこと』

 

「水があることは幸いだ。そんで、今更ながらこの場所は島だったんだな……ぐるっと一周回って確かめてみようか」


 どれくらいの広さなのかにもよるけどね。

 他にもカピーと一緒に寝泊まりしろとか書いているな。

 海の書と島の書の件は「埋める」とはどういうことなのだろう? まさか穴を掘ってってことはないだろうし。

 いろいろ試してみて「埋める」の意味を探ろう。

 お、まだ続きがある。指南書に書かれている事項はどれも重要なことばかり。


『本島は他の島とは少し異なります。

 なんと船のように動かすことができます。どうぞ海の旅もお楽しみください。

 動かし方はレバーを操作するだけですので、難しくありません、ご安心を』

 

 ご安心を。じゃないって!

 きっと書いた人はにっこりしているのだろうけど、僕にとっては笑い事で済ませることじゃないことは明らか。

 ここまでの文章を読むに僕には何らかの課題が課せられていて、クリアすることで褒美がもらえる。

 いろいろ思うところはあるが、先に全部読んでからにしよう。

 

 続いて3ページ目。隣のページは空白だ。

 

『現在のところ、本島にいる人間はあなた一人です。

 本島の初期配置は絶海の孤島状態になります。

 

 ですが、本島は移動できます。

 七つの海を制覇し、あなたの願いを叶えてください。

 その時まで首を長くしてお待ちしております。

 ボンボヤージュ』

 

 勝手なことを言ってくれるよな。

 慇懃無礼で高みから見物ってのが気に入らない。だけど、クリアすれば下手人に会う事ができるってことだろ。

 そのうえ願いも叶うという。これが冒頭で書いていた「ご褒美」の中身ってことかな。

 

「生活しろと言ってもだな……」


 何からやればいいのか。

 そうだな。暗くなる前に井戸の確認をしておこうか。

 水が無いとすぐに脱水症状になってあの世に旅立ってしまうからね。

 

 小屋を発見した時に井戸も目に入っていたのだ。

 井戸は手押しポンプ式でレバーを上げ下げすることで口から水が出てくる仕組みになっていた。

 本来だと手押しポンプを稼働させるには呼び水が必要なのだけど、生憎水が無い。

 水が出ないだろうけど、試しにレバーの上げ下げをしてみようとやってみたところ水が出たんだ!

 ますます謎が深まるが、僕にとって悪い事じゃないのでこれで良しとすることに。

 そんなわけでさっそく水を飲もうと思ったんだけど、バケツやコップを持っていないので両手を合わせて水をため口に含んでみる。

 

「うん、大丈夫そうだ」


 しかし、食材があったとしてもこれじゃあ生活をしていくには厳しいな。

 食器、鍋、火起こし……など生活を支える必需品がなければどれだけ食材を持っていても宝の持ち腐れだ。

 小屋の中にナイフ一本でもあればいいんだが。

 今のところ、使えそうなものは浜辺に放置されたままの竹竿くらい。

 指南書の言葉が真実だとすれば、竹竿の持ち主が浜辺に現れることもないだろう。

 つまり、竹竿はいつでも回収に向かうことができる。

 

 ◇◇◇

 

 小屋の中を探してみたものの、部屋の隅に箱が一つあっただけだった。

 大きさは学校の机にちょうど乗るくらいのサイズと言えばいいだろうか。上開きする箱でゲームで見る宝箱のような見た目をしている。

 開けてみたけど、中は空っぽだった。

 

 そんなことをしていたら、夕焼け空が終わり部屋の中も暗くなってきている。

 するとむくりとカピーが起き上がりのそのそと動き始めた。


「カピバラって夜行性だったっけ……」


 小屋に入ってから、いや、小屋の前にいた時からカピーはずっと寝そべっている。

 唯一起き上がったのは小屋の中に移動したときだけと言うのんびりっぷりであった。

 鼻をひくつかせ、ぼへーっと口を開き壁へ顔を向ける。

 

「うわっ」


 ビックリした!

 突然カピーの目が光り、映写機のように壁に画像が投影されたのだ。

 画像といってもとてもシンプルなもので黒字に白で文字が書かれているといったものだった。

 

『すたーたす

 クラフト 熟練度0

 採集 熟練度0

 釣り 熟練度0

 今日の成果 無し』

 

 すたーたすって何だろ。ステータスの誤字?

 注目すべきはそこじゃない。全部0なのはいいとして、これって僕の能力の表示だと推測できる。

 つまり、この三つのカテゴリーは練習をすれば関連する能力が格段にアップするってことじゃないだろうか。

 クラフトの技術で物を作り、採集と釣りで食材だけじゃなく素材も収集する。

 何もできないサバイバルのサの字も知らない僕がこの島で生きていけるように配慮してくれた力なのかもしれない。

 そこまでやるなら、元の世界に帰してくれてもいいものだと思わなくもない……。

 健康な肉体との引き換えに無人島生活を強要されるってのなら、甘んじて受け入れるしかないか。

 

「ありがとう。カピー。毎晩これを見せてくれるのかな?」

「きゅっきゅ」


 何この可愛らしい鳴き声……。ちょっとときめいてしまった。

 お、画像が切り替わるぞ。

 

『デイリーガチャを引きますか?』

「そらもちろん。引くよ」

『どこどこどこどーん』


 え、えええ。

 気の抜けるメッセージを最後にカピーの目が元に戻る。

 ガチャを引いたと思われるのだが、特に何か出て来た様子はない。

 あ、ひょっとして。

 

 宝箱を開けるとヤカンが一つ入っていた……。

 ヤカンか。あって困るものじゃないけど、明日のガチャに期待だな。


 ヤカンをテーブルの上に置き、ベッドに寝転がる。


「明日は何か食べないと……。火を使わずに食べることができるもの……フルーツがあればいいなあ」


 なんて考えていたら、すぐに心地よい眠気が襲ってきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る