第25話 お城の修繕と城下の整備

 城の修繕に関してはエミールに一任することにした。

 エミールはもともとブール城の管理人のような立場にあったので、城のことに詳しい。

 ただ、せっかく執事兼給仕係兼御者のうち、「御者」の役目から解放されたのに、また新たな仕事を割り振ってしまうのが申し訳ない。


「人使いが荒くてごめんなさい」

「とんでもございません。アンジェリク様に比べたら、このくらい働いたうちにも入りません。どうか、城のことは私に任せて、ご安心しなさってください」


 エミールは快く、修繕管理の役目を引き受けてくれた。


「ありがとう、エミール」


 セルジュと相談して城下の整備も進めることにした。

 ブール城の城下がさびれている理由の一つに、敢えて人の出入りを抑えているというものがあった。理由はドラゴンだ。

 飛行訓練などをする際に、あまり多くの人に、その姿を見せたくないとセルジュたちは考えていた。


 ドラゴンは警戒心の強い生き物だ。

 身体は大きく力も強い。鉱物を噛み砕くほどの強い歯と、鋼のような翼を持つ。


 不心得な人間がむやみに近づけば、驚いたドラゴンが人を傷つける可能性がある。悪くすれば殺してしまうかもしれない。


「サリとラッセは賢いし、とても大人しいけど、誰にでも懐いているわけじゃないからね。攻撃することはないと思うけど、我慢してイライラさせるのも可哀そうだし」


 アンジェリクは考えて、少し変則的だけれど、ブール城より北にあるソヌラという町をブールの第一都市として整備することを提案した。


「そういった町は、やっぱり必要なものなのかい?」

「必要よ」


 整備された町ではお金が正しく流れる。

 適正な価格でものが売り買いされ、豊かな者が使った金が、きちんと隅々にまで流れ、行きわたる。


 逆に町が荒れていると、粗悪なものが高く売られたり、きちんとした品物が安く買いたたかれたりする。お金があってもまともなものが手に入らなくなれば、人の足は遠のく。


「あなたがせっかくクビにした税収人みたいな、ずるい人ばかりが得をするような町になっちゃうの。そういうズルをして手に入れたお金って、ちゃんと使われることが少ないでしょ。ギャンブルとか、お酒にばかり使われたら、一生懸命働いてる人に回ってこないわ。ちゃんと働いた人が、ちゃんと豊かになる仕組みを、私たちは用意しなくちゃ」

「なるほど」

「ブールを代表する町がしっかりしていれば、領地内のほかの町も少しずつ整っていくわ」


 ブールの町はどこも、王都やモンタン公爵領と比べたら、比べるのも躊躇するくらい小さな町ばかりだ。けれど、規模の大小は関係ない。


 王都にだって、きちんと整備されていない地区はある。

 悪いことをして逃げている人や、どことなく怪しい人たちが住み着いていて、決して近づいてはいけないと言われている場所だ。

 犯罪の温床と言われる。クリムと呼んで恐れていた。


 クリムのような恐ろしい場所を作ってはいけない。


 各地で行われている開墾団の作業が一定の成果を上げ始めると、人手を半分に分けて、主要な街道の整備と急を要する橋の建設に着手した。


 冬になっても各地への視察は続いた。

 すべてを自分たちの目で確認することはできないから、信頼できるリーダーに任せ、肝心なところだけを見に行くのだが、それでもかなりの回数になる。


 手当ては出していても、どの作業も身体を使う厳しい労働だ。

 寒い中、手を真っ黒にして頑張る人々に感謝を伝え、労をねぎらいたかった。そうして顔を見せることも領主の大事な役目だと、アンジェリクはよく父のモンタン公爵から言われていた。


 見た目の細さに反して、かなり丈夫なアンジェリクが倒れたのは、年も改まろうかという十二月の終わりのことだった。



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