くたばれ、ヴィーナス
毒爪マン
こうして彼は月女神から愛されるに至った
むかしむかし、ギリシャにそれは美しい女性がいました。
彼女を見た者はみな虜になり、はるばる王様が求婚しにやってくるほどでした。
やがて、その美貌はオリュンポス山にまで伝わり、そこに住まう神々までもが彼女を口説くために、あの手この手で気を引こうとします。
しかし彼女は男たちに振り向きもしません。自分より美しくない男たちに興味がなかったのです。
気のない彼女の態度に男たちは一層熱をあげます。たとえばあるものはドワーフの技巧が詰まった黄金の首飾りを、またあるものは不死身の獅子の毛皮を彼女に贈り、気を引こうとします。
しかし彼女は男たちをその目に映そうとしません。獅子の毛皮も、黄金の首飾りも、人魚の涙も、龍の宝珠も、何を贈られても彼女は喜びませんでした。水面に映った自分の方が美しいと知っていたからです。
そんな彼女を見て怒り狂った者がいました。美の女神アフロディーテです。美の女神である自分よりも人間の彼女に夢中になる男たちを見て、嫉妬に駆られた女神は彼女を殺してしまいます。
彼女の死を悲しんだのは人間や神の男たちだけではありませんでした。鳥が、鹿が、鯨が、この星に住まう生き物たちが彼女の死を嘆きました。神も人間も動物も悲しみ働くことをやめてしまっては世界が滅びてしまいます。焦った女神は彼女を星座にしてやりました。
星座になった彼女は、幾千の時を経て、その煌めきが届く別の星で再び人間として生まれ変わります。でもその時、女神は彼女に対しある悪戯をしたのでした。
赤子は、まだ知りません。まさか自分が世にも数奇な運命を背負っていることなど。
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