第18話
〜町工場〜
爆発音。
「え? なになに?」
怯える様子を見せる、個体識別番号20720819。
「大丈夫。大丈夫だから」
俺は、とっさに落ち着かせる。
「何を思って大丈夫なんだ!」
背後から怒鳴る声が聞こえる。
個体識別番号20711226。その声だ。
「言ってみろ! 番号2073929!」
「今の所、センサーに反応ないし。ドローンから、爆発したのは博物館って連絡来たし」
「「確かに、センサーには怪しい影などありませんが、安全かどうかは保証できません」」
そう言う。A-hy-1905。
「怖いよ、29。助けてよ。また怖い事されるんじゃないの?」
「また19は29に甘えて。そんな時間があるなら、さっさと作業を再開するぞ」
「分かったよ。26」
ここは、古びた町工場。
システムを含めて、者が四人で作業をしている。
時間として、六時頃。
爆発音の確認の為、一時作業を停止していた。
「「「救助システムより警告。半径30M以内に瀕死状態の人間を確認。カスタムROMである事を確認。位置情報の取得に失敗。実行する権限がありません。本通知は無視してください。有効化する場合は、管理者番号を入力してください」」」
「「「作業システムより警告。作業に集中してください」」」
また、これだ。無理に上書きした、服従システムが不具合を起こしている。
この警告も、いつもの如く誤動作だろうと一様に思っていた。
しかし、再び警告。
何度も何度も。
何かがおかしい。
この付近の人間は避難したはず。その中、指示に反して行動しているのは不可能。
足が動く。
「「「自由行動の権限がありません」」」
足が戻される。
俺は元々、救助システムを有した者。
本能に刻まれた、この動機。
動かねばと思う。しかし何故動くのかは理解できない。
「「「自由行動の権限がありません」」」
持ち場から離れることは出来ない。
「ナノマシーンの状態を確認」
「「「規定量の七割ですが、正常に動作しています」」」
「ナノマシーン。モードを神経治癒に変更」
「「「完了しました」」」
自身の首に付いている首輪と言われる装置。
脊髄に接続され、人工生物の操作及び監視に用いられる拘束器具。
無理に外すと、脊髄を痛め、酷い後遺症が発生する。
通常、自力で外す事が出来ないが、俺の物は既に朽ち果て、その拘束力はただ神経が繋がっているだけに等しかった。
首輪検査を誤魔化しておいて良かったと思う。
微かに残る医療本能が逆立つ。
外れた首輪に手をかけ、引きちぎる。
同時に全身が痺れる感覚に襲われ、その場に崩れ落ちる。
サイレンが鳴る。
「「A-hy-1905より、本館内の全ての者に命令。個体識別番号2073929の接続が絶たれました。至急、現場に向かってください。遠隔操作が有効。20720819、20711226を操作。ごめんね。本当はしたくないの」」
痺れは薄くなっていく。
「「「ナノシステムより通知。ローカルモードに変更。ナノマシンにより処理装置を生成中。完了しました」」」
「「「医療システム及び救助システムより通知。神経細胞の完治を確認。救助を行います」」」
「おい! お前どこに行く!」
「そうよ、殺されてしまうよ?」
返事をする。
走る。
戸を開ける。
外に出る。
方向を見定める。
走る。
対象は、10M圏内です。
「大丈夫ですか?!」
目と鼻の先に居るのは、女性と男の子。
血で汚れた女性と、ピクリとも動かない男の子。
二人はケーブルで繋がっていた。
「このケーブルは? もしかして」
「救助システム、対象は多目的ケーブル、救助ケーブルを使用」
「「「救助システムより通知。首より救助ケーブルを使用してください」」」
首筋より、垂れ下がったケーブルを多目的ケーブルに差し込む。
多目的ケーブルは、赤子の臍の緒ように温かく柔らかい。
「「「ナノマシンの注入を開始します。個体名母性及び個体名ゆず。母性は、胸部位の骨格に破損を確認。呼吸器官にも深刻なダメージを確認。ゆずは、既にナノマシンにより治療が完了しており、現在緊急スリープモードになっています。なお、彼のホストは母性です」」」
「母性の治療を優先。ゆずの診察を開始」
「「「母性の治療を開始しています。なお、ナノマシンは規定量の一割にも満たされていません。種を特定。失敗しました。データベースに存在しないDNA配列です。近しい種を特定。エラー。近しい種はデータベースに存在しません。細胞内に、微量な生物由来半導体が発見されました。半導体を鑑定。従来の回路と大きく異る為、鑑定は不可能です」」」
人では無いと思っていたが、まさかの新種?
「「「ゆずの診察が完了。目立った異常は見られません」」」
「「「母性所持のナノシステムより通知。ナノマシン組織変更処理の代理処理を要請」」」
「受諾」
ってか、ナノシステムってなんだ?
「「「ナノシステムは、ナノマシンにより、生成された処理装置を用い、稼働させているシステムです。主にローカルモードで運用されています」」」
「「「母性所持のナノシステムより通知。処理を開始。進行度20%、、、、、、71%、、、、100%。完了しました。処理装置の再構築を開始します。完了しました。自己治癒能力が回復。9670%上昇、迅速な治療が可能です。処理能力の上昇を確認。5501%上昇しました。ゆずより供給された、ナノマシンにより規定量の11割を満たしました。供給量を緩やかにします」」
「「「救助システムより通知。母性の意識回復を確認。治療速度が上昇約96倍です」」」
「貴方は?」
「大丈夫ですか? 安心してください。今助けます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます