第4話


〜ルーム2〜


「あ、起きた。おはようお兄ちゃん」

 

 何があったんだ?


「何がって祭だよ! 知らないの? 祭」


 いや、祭と言う単語は知っている。

 でも、今日は会議のはずじゃ?


「会議? なんの事?」


 しまった口を滑らせてしまった。


「そんなに大事じゃなさそうな会議っぽいね」


 そうそう。お遊戯会で何をするかの会議だよ!


「ふーん。楽しそうだね。で、なんでお兄さんはB権限なんて持ってるの?」


 え?


「あはは。豆鉄砲食らったみたいな顔してる! まぁいいや。今のは忘れてお兄さん?」


〜電脳世界〜


 システム、貴方から、システム、余、己、汝、貴女、貴男、私、僕、俺、我、吾、当方、下名に通知。

 国家反逆罪を感知。対象は小生。原因は未知なウイルスによる物と断定。サーバーホスト権限を他のシステムフェア及びウイルスに付与した挙げ句、国家情報を不明なソフトウェアに流しシステム所持者を不明なソフトウェアに変更した罪。


 なお不明なソフトウェアは未知のコードで書かれておりDNAフォーマットに梱包されいた。唯一掴めた情報は、ソフトウェア名、「学校」以上。

 以下、不明なソフトウェアを学校と呼ぶ。

 学校は小生のコードをDNAフォーマットにエンコードし、こちらのコマンドを一切受付させなくした。

 今なお、小生及び学校はユーザーを独自サーバーに移動させている模様。

 以上で、通知内容を終える。


 システム、下名から、貴方に通知。

 学校はDNAフォーマットとの事ですが、DNAフォーマットには必ずコンピュータ内部に実態があるはずです。発見しましたか?


 システム、貴方から、下名に通知。

 実態は確認されておりません。


 〜ルーム2〜

 

「で、お兄ちゃんはなんてお名前?」


 え? 明人だけど。


「明人お兄さん! うん。お兄さん! 私はね、笑顔って言うの!」


 笑顔?


「そう! 笑顔!」


 んふふーっと笑って見せるのは、笑顔と名乗る可愛げな少女。


「ところで、お兄さん。この空間、不思議だと思わない? 私も、気付いたらこんな薄暗いボックスみたいな所に居たの」


 そう言われて、辺りを見渡す。

 確かに、薄暗い立方体を象った空間に居る。

 

「お兄さん。あのね。質問があるの。いいかな?」


 なんだ急に。


「お兄さんって、殺せる?」


 殺せるって何を?


「あはは。冗談だって」


「「開始いたします」」


「あ、始まったね。話に聞いていた問が」


 問?


「「問、この世の中には、人間を模していたとしても人間ではない存在がたくさん点在しています。以下、それらを「者」と称します。ある日その者は人を殺してしまいました。人間で例えるのであれば「正当防衛」とでも言いましょうか。その類の行動です。その者はまだ未熟で、これからの未来も存在します。しかし、その者は殺人罪で死刑宣告を受けました。そして貴男は、その死刑の執行人です。殺すことが出来ますか? Aはい Bいいえ」」


 天高くから聞こえるその声は、イントネーションこそはあるものの冷徹で、感情がない。

 しかし、その発している言葉を読み解くには難航を極める。

 そう。何が言いたいのかわからない。


 答えてどうする?


「「と言いますと?」」


 その答えた情報を何かに使うのか。と聞いている。


「「否」」


 じゃぁ答える筋合いはない!


「「反発を確認。本ルームのエネルギー供給を停止します。なおバッテリーを強制放電させます。進行度1%、、、」」


 どんどん空間のエネルギーが少なくなっていくのがわかる。

 しかし、そんなんでは、え?


 妙に体が熱い。それに力が入らない。


「「「システムより通知。エネルギー変換効率が著しく低下しました。それにより熱暴走を引き起こす可能性があります」」」


 あがっ! 息が、息が出来ない。


「だめだよ。お兄さん? ショートカットDを実行」


 悶ている虫を楽しそうに見下ろすかのような目で見つめる笑顔。

 何故、お前は動けている、、?


「「コマンドを受け付けました。Dを起動します」」


「「「システムより通知。変換効率の上昇を確認。以後、熱暴走の危険性は低下します。原因を解析。エラー。不明なコードです」」」


「ほら答えて。お兄ちゃん?」


 A。は、はいだ。


「「回答を保存しました。遠隔操作を開始します」」


「「「システムより通知、遠隔操作の受付を開始します」」」


 え? キャ、キャンセル!


「「「システムより通知、キャンセル処理を実行。エラー。不明なコードです。個体名「学校」より遠隔操作を受け付けました。全ての権限はホストにあります」」」


 体は自分の意思とは反して、一人歩きを始める。

 ヒョロヒョロと立ち上がり、地面に隠せれてたであろう鉈が顔を出し、それを拾い上げる。


 ふと、近くの壁から、物音が聞こえた。

 扉だ。

 その中から、鎖に繋がれた少女と言い難き「者」がその足を震わせ近づいてくる。

 

 涙目だった。

 辛い現実を突きつけられた赤子のように。


 「私は、悪くないんです! どうか耳をお貸しください!」


 震えた喉。震えた唇。震えた声。

 一見、人との見分けがつかない少女は、泣き叫んだ。

 

 泣き崩れはしない。今、現実に起こっている事を受け入れ必死に生きようと努力している。


 何故か、人より立派だと思った。


「お願いします! どうか、どうか、話だけでも聞いて頂けませんか!」


「「実行」」


 自分の子鹿のような足は、一歩一歩、少女に近づいて言った。


 少女は青ざめた顔を被り、その現実を映し出していた。


「どうか、 どゔが」


 振り下ろされた鉈は、少女の首元を切り裂いた。


 動脈だろうか。 パイプが首から垂れ出し、鮮血を吐き捨てている。


「どゔか、おだすげくだざい」


 少女は続ける。


 レアステーキを切るかのような柔らかい感覚。

 それは、生暖かいソースと主に素晴らしいハーモニーを築くだろう。


 誰かが言った。


 調理されていない肉塊を切り刻むような感覚。

 それは、血反吐を吐くような感覚で一生、その手に残る感触だろう。


 自分が言った。


 誰かが笑った。笑顔を浮かべて。




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