怪獣使いの異世界転移
小砂糖たこさぶろう
怪獣爆誕─異世界怪獣ベムガ─
一度歩けば大地を揺らし、その鳴き声は生物としての強さを轟かせ、生きるその姿は破壊の化身、究極の
幼い頃から怪獣に取り憑かれたかのように怪獣映画にハマり、特撮映画にハマり、怪獣が他者を蹂躙する姿に尊さを感じ、自分の生き物としての非力さを嘆いた中学時代もあった。
そして今も嘆く、空から降り注ぐ鉄骨から他人を突き飛ばし、庇い、呆気なく死んだ。
なんて弱い生き物なんだ俺は
◇
周りから変人奇人と噂され、付き合っていた恋人からは不気味がられ二ヶ月以上の交際には至らなかったが、悪人では無く、ただ怪獣が好きなだけだった。
寧ろ医者である父や社長を務める母を見て育ちボランティアに生を出し、己の力で出来ることを精一杯してきた青年だった。
病弱な子に希望を与え、不良と拳を交え、居場所の無い者の居場所となった。
どんな人であっても青年は優しい笑みを浮かべ、どれだけ恐くても決して怯えることは無かった。
「へ、変態だああああぁぁぁ!! 」
真っ白な空間で青年は叫ぶ、全裸の男が美術品の石像のようなポーズで佇んでいたが青年の言葉にムッとし手をかざした。
「無礼だぞ人の子よ」
「ぐっ!? 」
波動のような何かに吹き飛ばされたマコトはよろよろと立ち上がった。
「人前にぶらぶらとぶら下げてくれる……! 」
「ほう、見えない力に襲われて怯えもしないか」
「見えるものよりも見えないものの方が多いから」
「若造が」
青年的には悪夢みたいな光景、死後の世界は思っていた以上の地獄絵図だった事に初めて人を助けて後悔していた。
「見所はある」
「は? 」
男は指を鳴らすと五つの石が浮かびあがった。
「これは死んだ者の中から選ばれた勇士にのみ与えられる《ギフト》だ」
「勇士……? 」
「そう、己の闇と調和した心を持ち、人を超えた者のみに与えられる《ギフト》」
「…………褒めてもらうのは嬉しいけど、そんな凄い人間になった覚えはないかな」
「死後肉体を持ち、意思をもっているのに凡人を気取るとは」
「……それで、死んだ以上やる事もないしそのギフトとか言う石自慢を聞けと」
「自分が貰えるとは思わないのか? 」
「愛してくれた両親を残して先に死んで、大切な友人達に黙って消えて、幼い子の目の前で死んだ人間を見せたんだ……そんな愚かな男が勇士だなんて、悪い冗談だ」
「────ふむ、面倒だな」
「全裸の男に面倒と言われるのも悪い冗談だよ」
「よし」
四つの石が消え、残りの一つが光りとなって青年の身体の中に消えると足元も光り始めた。
「は!? 」
「己の罪を償う旅をせよ、既に与えた四つのギフトの内、悪用している者がいる──破壊の王の力を持ってその者を討て」
「いやいやいやちょっと────」
青年の足元に穴が空き落ちる。
真っ白な空間から火山が噴火し荒れ狂う地に、更に変化して緑が生い茂り果実を持つ少年が手を広げると町が生まれた。
人々が生活を営む光景に変わり、日本刀を持った女剣士が大勢の人間を連れて怪物と戦う、まるで映画のような非現実的な映像が青年の頭を埋め尽くす。
『がぼっ゛!! 』
激しい頭痛と全身を焼き尽くすような熱さにもがいていると、青年の身体から石が飛び出すと姿を変えた。
『かい───────じゅ───────』
更に短剣へと姿を変えて青年はそれを握ると一面空に変化した。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!? 上から落ちてきた物に当たって死んだ人間を空から落とすなんてぇぇぇぇ!!!! 」
何もかも非常識だと叫ぶ、叫んだ所で翼が生えるわけでもなく、落ちるスピードが遅くなるわけでもない─────ただ変化があるとすれば青年の姿は青い光りに包まれて行き、球体となり流星のように落ちた。
◇◇
『青き流星落ちる時、破壊の王が降臨す』
少女は興奮混じりに小走りで走る少女、赤と
白の巫女装束で走りづらそうに走るがその表情には喜びがあった。
(あの"占い"の通りに"青い流星"が落ちてきました!! )
荒れた山道をなんのその、少女にとって庭のように慣れた場所で何なく走って青い光りが落ちた場所についた。
「────この人が破壊の王? 」
気を失った青年を興味深そうに見つめぺたぺたと触る。
破壊の王、と言われるモノがどれほどの物か興味があり里を飛び出したものの破壊の王はそこら辺にいるお兄さん────ではないと"巫女"である少女は気づいた。
傍に転がっている短剣の様な石から感じる波動は皆が魔法に使うマナとは比にならないほど禍々しくもあり神秘を感じ、青年からもかなりの高純度なマナを感じていた。
何よりも、青年に触れた途端少女の"巫女"としての力が見せた未来の光景に少女は青年から目を離さないでいた。
「……この人が、私の────っ、そんな」
「ぐっ……ゲホッ! 」
「はっ! 大丈夫ですか!? 」
「────嗚呼、天使がいる」
「ふぇっ!? 」
青年は頭を押さえながら起き上がる。
「……あー、夢でもないよなぁ身体のあちこち痛いし」
「あ、あの……大丈夫ですか? 」
「どうにかね、ごめん、ここがどこか聞いても? 」
「ここはソボロ山、私達が住む"巫女の里"と現世を繋ぐ道です」
「──────ありがとう」
青年は立ち上がり、文字通り石となったギフトを広い砂を払う
「じゃ」
「ど、どこへ行くのですか!? 」
何事も無かったかのように去ろうとする青年を思わず抱き止める少女に青年はギョッとした。
「……どこだろう、とりあえず困ってる人がいそうなところかな」
「そんな行き当たりばったりな」
「俺もよく知らないけど、コレを使って悪さしてる奴をどうにかしなきゃいけないらしくてさ」
青年と会話した第一印象はしっかりしてそうで、どこか抜けていて、何かを隠しているいい人でもあり悪い人でもある。
放っておけない人だと、少女は青年をじっと見た。
「困っている人がいれば助けてくれるのですか」
「まぁ、できる範囲でだけどね」
「なるほど、ではもう一つ質問です」
「はいどうぞ」
「恋人はいらっしゃいますか? 」
「………………………………………………その話はやめよう」
「つまりいませんね? 」
「抉らないでって、なんだったら一ヶ月前に別れられたんだから」
「お兄さんは何歳ですか?」
「じゅ、十八だけど」
「ふむふむ、ではお名前は? ちなみに私はヨモと言います」
「"ヨモ"ちゃんね、俺はマドカマコト」
「はいはい、では少し屈んでもらって左手を出してください」
「注文が多いな、これから俺は食べられるのか? 」
「………………あながち間違いではないですね」
「は? 」
「えい」
少女は首からぶら下げていた指輪の鎖を引きちぎり指輪をマコトの左手の薬指に通した。
「え」
「健やかなる時も病める時も以下省略、私を幸せにしてくれますか? 」
「いや──ちょっと─────ま─────誓います────なんで!勝手にくちが──────」
「では成立と言うわけで誓いの口付けを」
「────────!!!!!! 」
言うなれば操り人形のようになす術もなくマコトは初対面の少女にキスをされ、何かに繋がれた感覚に陥った。
死んでから今に至るまで出会った人物二名のうち二名がどこか狂った人物、それなのにどちらも顔が良いことにマコトは少し腹立たしかった。
思わぬ出来事になのか、ヨモに操られているのか、マコトは腰を抜かして座り込むもヨモは一向に離れる事は無く、ヨモに求められるがまま、されるがままだった。
◇◇◇
「占いの事実を確認しようとしたらまさか旦那様ができるなんて────ぽ」
「ぽ、じゃないよ、いくら君がマセていてもこういうのは大切な人と順番があってな」
「マコトの世界は平和だったのですね」
「平和でなくても初対面でキスをしてその上婚姻の誓いとやらはしないのよ、それにヨモさん、お前何歳よ? 」
「今年で十五です! 」
「これだもんなァ」
山を歩く二人の目的はヨモの住む巫女の里、マコトはヨモ曰く自分よりぶっ飛んでいるのが多いから先に唾をつけて予約したと、本気で逃げ出したくなった。
しかし共に歩く無茶苦茶な少女はキスをして浮かれて足元がおぼつかないヨモを放って逃げる訳も出来ないので手を繋ぎ手を引いて歩くしかなかった。
「んふふ」
「あぶねって」
「危なくありません! こうしてマコトが私を抱き止めてくれますから! 」
「……このチンチクリンは」
元カノ達に比べれば可愛い生き物だ。
医者の息子だと近づいて来る者、金持ちだからと近づいて来る者、いずれもマコトに恐怖し逃げる様に去った。
その点ヨモはどうだろうか、占いの結果を見にきたら千里眼が見せた未来の旦那が転がっていた。
そして持ち帰ろうと巫女の里で代々受け継がれる確実に伴侶をゲットする方法を実戦し退路を絶ったのだ。
元カノ達と違ってマコトは恐怖し逃げる事はできないが、ヨモはどこまでも純粋で悪い子では無かった。
「夜になると魔物が活発になりますし、山道を歩くのも大変ですから急ぎましょう! 」
「はいはい」
「ですがこれから夫婦になるのにお互いの事を知らないと行けません、少しここで休息をとり、お話しませんか? 」
「……優しいな、ヨモさん」
「えへへ」
実際に疲れていたマコトはその提案にのり、切り株に腰を下ろしてヨモの話しを聞く、巫女として普段修行をしている話しや意地悪な姉弟子の失敗談、娯楽が少なく外の人間と会話をする事も滅多に無い、ヨモは楽しそうに話した。
十四歳にしては小柄な身体を大きく動かして話をする姿が可愛らしい、マコトはヨモの話しを愛おしそうに聞いていた。
「マコトの好きな物はなんですか? 」
「好きな物か……」
この手の話題は失敗するからなぁ、と渋るが期待するヨモの瞳にマコトは根負けした。
「伝わるかはわからないけど、怪獣かな」
「カイジュウ……? 」
「他にも色々あるけど、人生で一番影響を受けたのが怪獣なんだ」
「美味しいのですか? 甘いのですか?」
「ははは! 美味くはないだろうな……むしろ俺達人間が食われる側だろう」
「そんな恐ろしい物が好きなのですか!? 」
「恐ろしい……うん、凄く恐ろしくて強い絶対的な生物、生物の頂点に君臨する……そんな強さに惹かれたんだよね、小さい頃は病弱で病院にいた時の方が長い時期もあった」
「マコトの世界は平和だと思っていましたが……カイジュウ、恐ろしい生き物が住んでいるのですね、まるで魔物です。自身も病魔に蝕まれながらよくご無事でしたねマコト」
真剣な表情でマコトの手を握るヨモに一瞬惚けたがマコトは慌てて訂正をした。
「……あ、違う! 怪獣は実在しない生き物なんだよ! 俺達の世界には映画って物があってな、多くの大人達が金と時間と技術をふんだんに使って作る作品が沢山あるんだ」
「エイガ……」
「ヨモさんぐらいの年齢の子なら恋愛映画とかかな? イケメンと美少女のラブストーリー」
「何故ですか?」
「え、何故って」
「私にはマコトがいるのに他の男女の恋を見なければならないのですか」
「ヨモさん……」
「あ! もちろんマコトもレンアイエイガ? は観たらダメですよ! 私がいるのですから! 」
可愛い、とマコトはヨモの頭を撫でようとすると人の悲鳴によって遮られた。
「この気配は魔物……マコトはここにいてください」
「魔物って……」
「魔物退治は巫女が得意とするものですから」
ヨモは杖を構える。
先程までの可愛らしい様子から一転、真剣な表情を浮かべ、強い使命を帯びた瞳にマコトは何も言えなくなった。
「行ってきます」
◇◇◇◇
「たああああ!! 」
杖を振ると蝶の形をしたエネルギーが魔物達に襲いかかる。
ヨモの背後に立つ老婆は巫女の里への食料
を運んでいた顔見知り、本来巫女の力を恐れて魔物は寄り付かないのだが、ヨモは目の前にいる魔物の住処から食料が減ってどうにもならなくなり襲ったのだろうと考えた。
(銀猿は本来人前に現れない魔物……しかしこれ程まで飢えていると仮に撃退してもまた人を襲う……命を奪うしかありませんね)
「よ、ヨモ様……! 」
「私は大丈夫です」
今のところ一対一、勝てない相手では無いが、群れをなして生きる魔物が一匹で来るとは思えない、他の巫女達が異変に気づいて援軍に来てくれる事を祈りながら杖を構え直す。
『きいいいいいい!!! 』
「えいやぁ!! 」
妖力を駆使して術を使いながら銀猿と接近戦で戦い、ヨモは攻めあぐねていた。素早さには自信があるが力の差は銀猿の方が強い、掴まれたり殴られたりしたら一気に不利になる。
慎重かつ激しい攻防、幼いヨモの体力に限界が近づき、とうとう誤った一手を打ち、銀猿に隙を見せてしまった。
「ヨモ様!! 」
老婆の悲痛な声があがる。
「っつぅ……! 」
左腕が力なく垂れ、撃退しようと片手で杖を振ると銀猿はヨモの顔を引っ掻いた。
「あぁっ!! 」
この機を逃すかと他の木から銀猿の群れが飛び出してヨモに襲いかかり、身動きが取れなくなったヨモは銀猿の攻撃を防ぐ事が出来ずに歯を食いしばりながら痛みに耐えていた。
「に、にげ……て」
「あぁ……ヨモ、様!! 」
銀猿に覆い尽くされ、立てなくなったヨモは倒れた。
(────ごめんなさい、マコト)
蹂躙され、亡骸を辱められ、銀猿の血肉となる絶望の未来にヨモは目を閉じようとした瞬間、銀猿達はヨモから一斉に離れた。
「生命吹き込む剣よ、獣の姿となりて君臨せよ!」
石が砕けて短剣へと姿を変えたギフトをマコトは大地に突き刺すと青い光の柱が天へ伸びた。
「ま……こ、と」
「目覚めろ! 異世界怪獣ベムガ!! 」
空から青い玉が降り注ぐと眩い光を放つ
『────────────────!!!!!!!!!!!!! 』
高さ五十メートル、尾の長さはその倍、黒光りのある巨大な肉体は力強さと生命力の象徴、鋭い爪を鈍く光らせ、口からは赤黒い炎
が漏れる。
異世界怪獣ベムガ、そう名付けられた巨大生物は再び咆哮をあげると山を震わせた。
「超破壊熱線!! 」
まるで時が止まったかのような静寂、刹那放たれた熱線は山々を突き抜けて巨大な岩山を溶かし、遅れて熱線が通った場所が爆発した。
『グギャアアアアア!! 』
岩山に身を潜めていた龍は悲鳴のような声をあげて空を飛ぶ。
『───────────!!!!! 』
再びベムガかは放たれた熱線は枝分かれし、逃げようとした龍を蜂の巣にした。
マコトの握る短剣の鉱石が激しく光り輝く
とそれに呼応したベムガの全身が赤黒く輝くと口から雷を放出し、その雷が龍を包み込みその全身にスパークが走ると龍の肉体が爆発して木っ端微塵になった。
「は、はは……さすが怪獣、つえーや」
マコトは全身から力が抜けてその場に倒れた。
「ぐっ……! よ、ヨモさ…………ん」
ベムガは光の粒子に変化してその場から消えると、そのままマコトも意識を失った。
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