8月18日
1
空が白んでくるまでが苦労した。先生と僕は女将さんからもらったエナジードリンクを飲んだのだが、目蓋は重りがぶら下がっているかのように重かった。
日の光を浴びると眠気が吹き飛んできた。だが、貫徹をしていたので、頭が重く、思考は雑然としていてまとまりがなかった。
熊沢さんとはいろいろな話をしたのだが、途中から考えがまとまらなくなり変なことを口走っていたような気がするが、何を言ったかも覚えていなかった。
朝の4時を回ったころに、祭りはお開きとなり、社に集まっていた男たちはみな山を下りて行った。僕らはもう少しこの山上神社を周ってみることにした。
社の裏手にはたくさんの石塔があった。どれも庚申塔だった。庚申塔は60日に一度の庚申講を18回行った記念に作られるものだ。確かに石塔に彫られた年号は3年ごとだった。
一部欠けている年代もあるが、夷島への移住が始まった室町時代から平成に建てられたものまで大量の庚申塔が集められていた。これでこの祭りが庚申講に影響を受けていることがわかった。
僕と先生が庚申塔のディティールの変遷を観察していると、熊沢さんが庚申塔群の裏側へ周っていた。
「熊沢さん、どうしたんですか?」
「道があるんだ。」
「道?」
僕も庚申塔群の裏へ周った。確かにそこには草木が線状に生えていない、獣道のようなものがあった。集まって建てられた庚申塔は獣道を隠すことを意図して配置されているようで、わざわざ裏側へ行かなければ獣道の存在はわからなかった。
「先へ行ってみようか。」
先生が言った。
「危なくないですか。一昨日の大雨もありますし。」
獣道はまだぬかるんでおり、進むのは怖かった。僕は引き留めようとしたが先生は行く気満々だった。
「庚申塔で隠されているのも意味があるのかもしれないし。僕らが遭難したら、旅館の女将さんが宿代の請求に来るから心配ないよ。」
そう言って先生は獣道を進んでいった。熊沢さんも先生についていったので、僕もしょうがなく最後尾を歩くことにした。獣道は山の斜面を横切るように走っていて、片側には何もなく、足を滑らせたら落ちてしまいそうだった。道は最近もそれなりの人通りがあるようで、踏み固められた道が続いていた。
しばらく進んでいくと、道の両側に石があった。長い年月雨ざらしになって表面は摩耗していたが、明らかに人為的に形を整えられていた。形や大きさは神社によくある狛犬のようだった。この先に何か、祠か神社があるということだろうか。
二つの石像だったものに挟まれたその先の斜面にポッカリと穴が開いていた。人為的に作られた洞穴のようだった。
「ライト持ってる?」
洞窟を前にして先生が言った。熊沢さんは首を横に振った。
「スマホのライトならあります。」
「貸してもらえる?川凪さんのティアラや庚申塔を撮ってたら電池切れちゃって。」
「いいですけど、もしかして中に入るんですか?」
「そうだよ。ほら、スマホ、スマホ。」
熊沢さんも入れて2対1で洞窟に入ることは可決された。仕方なく僕はスマホを差し出した。
洞窟の中はひんやりとしていた。山の西側の斜面に入口があるため日があたらず、先生の持つライトしか光源がないため、自然と歩みが慎重になった。
右足が靴を挟んで何かを踏んだ感触を覚えた。さらにそれはパキっという音を立てて割れたのである。
先生がその音に気づいて僕の足元を照らすと、そこには白い棒状のものがあった。先生がライトを動かすと、それは壁面にもたれかかれるような形の人骨だということがわかった。
「うわっ」
僕は思わず尻もちをついた。
「大丈夫かい。」
熊沢さんは僕に駆け寄って手を貸してくれた。
「大丈夫です。驚いただけだから。ありがとう。」
先生は僕より人骨に興味があるようだった。果敢にもしゃれこうべを間近で見ていた。
「それよりもこれ、見てみなよ。」
先生が人骨を指した。
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