第16話/混濁③
気付くと、屋上にいた。これじゃ、入学式には間に合わないな……。他人事のようにそう考えていた。広い屋上のど真ん中に膝から崩れ落ちる。
本当に悔しい時は涙すら出ない。
俺の今までの悔しさたちを否定するような教訓が、胸に染み渡った。
風が吹き、冷静の
眠っていたようだ。それとも失神か……。俺はゆっくりと
死のう……
俺はゆっくりと立ち上がった。これ以上、千絵の平穏を奪ってはいけない。そして何よりも、俺自身から奪われたくなかった。これ以上、何かを奪われてしまったら、俺の心が死ぬ。そんな残酷を俺は許容できない。
「おい……」
ふらつくように屋上の転落防止柵まで歩み寄ると、靴を脱いだ。
なんで靴を脱ぐんだろう。何の意味があるんだ? 少し疑問が残ってはいたが、そんなことはどうでも良かった。俺は素直に礼儀作法に従うことにした。
「おい、ってば!」
呼ぶ声に振り返ると、屋上に設えられた貯水タンクの上に、一人の少女が立っている。その超俗的な雰囲気に、息を呑んだ。
「死神か……」
「そんな半端な存在ではない」
少女は貯水タンクから足を踏み出した。自由落下を否定するようにゆっくりと、少女の身体が屋上の床へ降り立つ。俺は目を
「……俺の頭もいよいよ限界、だな」
「そうではない。お前を取り巻く状況は非常に切迫しているが、目の当たりにしているのは現実だ」
「お前は、何者なんだ……」
「私は、
ここにきて、ようやく俺は少女の観察を始めた。
非常に小柄だ。小学生高学年くらいの背丈だろう。上半身を覆う焦げ茶のマントとフードを
「で、魔女が、なんだって?」
魔女という、普段はおおよそ使わない言葉を口から吐き出して気づいた。そういえば、学校の七不思議にあったな。黄昏の魔女……。合わせ鏡の前で三時間、待ちぼうけさせられた……。結局、暴けなかった最後の一つ。それが今、目の前に姿を現しているという。
「中間爽哉。お前は今、審判のさ中にある。それを伝えておこうと思ってな」
魔女の言葉に、俺の意識が覚醒した。
「この状況! お前が何かを知っているのか!」
「お前の魂は今、
「冥府? 魂? いきなり胡散臭くなってきたぞ……。そんなのは宗教の勧誘か、三流科学雑誌の特集だけにしてくれ」
「お前を取り巻く今の状況を、自らの言葉で説明できるのであればそうするんだな」
「……」
俺は何も言い返せなかった。
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