第10話/オワリのハジマリ①
優子とは再会の約束をして別れた。ゴールデンウィークに催される高校の謝恩会に、優子も呼ばれているという。お互いに、絶対にすっぽかさないという約束をした。その頃には気持ちの整理もついてるだろうから、また自然に話せるよ、と優子は笑った。俺は黙って
下駄箱へ向かう廊下を歩きながら、俺は
もう下駄箱にも人影はまばらだった。土間特有の冷ややかな暗がりから、校庭を見やる。よく晴れて白めいたグラウンドには、天が新しい門出を祝福するかのように光が降り注いでいる。靴を履き替え、シューズバッグへ納めると、見慣れた顔が姿を現した。
「あ! お兄ちゃん! みんな待ってるよ!」
しかめっ面で駆け寄ってきたのは、
二つ年下で同じ高校の一年生である。兄妹揃って親譲りの
よほど駆け回っていたのだろう。その額には珠の汗が浮いていた。
「あぁ、悪い。用事があってな」
「もう! 千絵ちゃん、ずっと待ってるんだよ! それに、お母さんも」
千絵はともかく、なぜ母まで。式が終わったら帰るんじゃなかったのか。
「とにかく、急いで!」
なおも焦りを見せない兄に業を煮やしたのか、涼香は腕を掴んで引っ張った。お
「わかった、わかった。急ぐから、ちょっと待ってくれ」
涼香の手を振りほどくと、回れ右して校舎に相対した。深々と一礼する。お世話になった校舎に。尊敬する教諭に。そして、俺を成長させてくれた思い出たちに。一瞬だったが、走馬灯のように苦楽の記憶が脳裏を駆け巡った。
その時、校舎からせせら笑うような声が聞こえた気がした。瞬間、背筋に寒気が走る。決して、不快な声ではなかった。クスクス……と、子供のように無邪気な笑い声。しかし俺には、過ちに気づかない愚者を
まぁ、空耳に違いない。俺は誤魔化すように、額の脂汗を手の甲で拭った。
「おにーちゃん! 私、もう、知らないよ!」
「あぁ、悪い。行こう!」
踵を返すと、駆け出した。思い出も悪寒も、
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