第六話:Ne:最初の報告会

 ──家に帰宅してから、しばらくして。


 ''いつもの時間''となったので、俺はパソコンを起動し、ネトゲにログインした。

 瞬間、ディスプレイに星の美しい夜空が広がる平原が映る。


 そして、彼女……ファウは、既にログインしていたようだ。

 青髪美少女が隣に立っており、なにやら作業しているモーションをとっている。


【こんばんは。今日は宝箱?】


【セコンさん、こんばんは〜(・ω・)ノシ 】

【ですです。おかげでまた・・・(´・ω・`) 】


 予想通り、ログインボーナスでゲーム内のバッグがいっぱいになったらしい。

 ファウはアイテムをよく使うため、比較的バッグがまる頻度ひんどが多い印象がある。


 ただ、別にこれはファウが弱い訳ではなくて、職業プリースト仕事アイテムサポート上アイテムが多く必要になるのだ。

 逆に、ファウはその準備を怠ってはいないため、むしろ強いと言えるだろう。

 俺が知っている限り、ファウはそんなマメで真面目な性格なのだ。


【あの好きな人とはどんな感じなのかな?】


 ファウの性格もそうだが、それより俺は気になっていたことを早速尋ねてみた。

 今日からファウも高校生らしいし、それなら早く幸せになって欲しい、と思う。


 青髪美少女の頭上からはすぐに吹き出しが表示され、瞬く間に返信が来た。


【デイリークエストをしていきながら、ゆっくりと話していいですか?】


【それもそうだね。わかった】



 □



 ──薄暗い光景が広がる不気味な森……その中で、俺は数々の敵を無双していた。


 ここは曜日ダンジョン。名前通り、曜日によって形を変えるダンジョンのことだ。

 完遂かんついすれば報酬ほうしゅうを貰えるデイリークエストのため、俺たちはここに来ていた。


【とりあえず、セコンさんにして頂いた二つのアドバイスは実行してみました】


【手に触れたり、さりげなく体を近付けたりするやつかな】


 後ろでひたすらサポートしてくれるファウに、昨日のことを思い出しながら尋ねる。

 今更だが、よくよく考えればその二つでさえ好きな人相手には結構恥ずかしそうだ……


【はい。かなり、緊張しました】


 それなのにこなしたファウからは、それだけで好きな子に対しての愛情を感じ取れる。

 俺も二乃にののことは好きだが、そういう愛情では無いので少し羨ましいな。


「……そういえば」


 二乃と言えば、今日は少しばかり様子が違っていた。

 手を握ってきたり、電車内でくっついてきたり……アドバイスの内容と似ている気がする。


「……いやいやいやいや」


 さすがにそんな奇跡があるわけがない。俺は勢いよく首を横に振った。

 それに、朝二乃がしてきたことは、俺がファウに伝えたアドバイスよりレベルが高い。


 馬鹿な妄想など今すぐにでも振り払って、俺はキーボードに手を置いた。


【お疲れ様。よく頑張ったと思うよ】


【そう言って貰えて嬉しいです('ω')あまりいい結果とは言えなかったので・・・】


 ファウからの返信はやはり早かったが、一体どうしたのだろうか。

 もしかして、相手にこばまれてしまったのだろうか……?


【触れていることに気づいてくれているはずなのに、何もしてくれないんです・・・】


 杞憂きゆうだった。拒まれた様子はないので、俺はほっ、と胸をで下ろす。

 ただ、『何も』、とは一体……


【女の子がそういうことしたら、男の日は発情したりすると聞いたのですが・・・】


「誰だよファウにそんな偏見へんけん教えたの!?」


 本当に杞憂だったよ!教えたそいつは男のことをなんだと思っているんだ!?

 思わずリアルで叫んでしまったが、まあ本当に拒まれた訳ではなくて良かった……


【別に触られたり近づかれたりしても、発情はしないよ。ドキドキはすると思うけどね】


 俺は頬を引きらせながら、ファウの誤解を解いてやる。

 このまま男性不信になってほしくはないから……ちなみに、最後のは経験談である。


 ファウからの返信は早かった。俺のサポートを完璧にこなしながら、器用なものだ。


【ドキドキ……そういえば、その子はやけに動揺していました。顔も赤かった気がします】


 ……ファウにバレてしまっているその子は可哀想だが、それって寧ろ好反応では?

 毎日話しているくらいらしいし、今考えたら嫌う方が不思議な話なのかもしれない。


 その旨をファウに伝えてみたら、ファウの返信は瞬速のごとく早かった。


【ほんとですか!?それなら、少しだけ自信がでてきました⸜(*˙꒳˙*)⸝】


 その速度で考えると本当に喜んでいるみたいだ。心底その子のことが好きなのだろう。

 そんなファウの様子に頬をゆるませながら、俺は再びキーボードに手を置いた。


【それじゃあ、その二つを続けていくと良くなると僕は思うよ】


【了解しました!(*`・ω・)ゞ】

【あっそれと、実は私、もう一つだけやってみたいことがあるんです!】


 結論を出すと、ファウが突然そんなメッセージを送ってきたので俺は首を傾げる。

 続けてのメッセージはすぐに来た。


【私、実はお菓子作りが趣味なんです】

【それで、最近クッキーに挑戦しまして】


 どっかで聞いたような──いやいや、さすがにありえないはずだ。

 ただ、ファウの口ぶり?からして……


【その好きな人に、クッキーをプレゼントしたいのです!(`・ω・´)】


 やはり予想通りだった。

 個人的にはとても良い案だと思う。誰であろうと、プレゼントされると嬉しいはずだ。


【セコンさんは、もしクッキーをプレゼントされたら、嬉しいですか?】


 ファウがそう尋ねてくるが、あいつ……二乃で想像した俺の気持ちは向上している。

 というか、今日やった自己紹介でも『ほしい!』と実際に思っていたし。


【もちろん嬉しい。良いと思うよ】


【ほんとですか!?じゃあ、挑戦します!】


 そんな相談をしつつ、俺とファウはデイリークエストをこなしていく。

 クッキーのプレゼントは、明日決行することになったのだった。

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