生徒会長は呑んだくれっ!?
星ノ芽 ルナ
プロローグ
第1話 宝石は簡単に砕け散る
プルタブが開く音は、憧れがヒビが入る音だった。
カシュッ、とその軽い音は会長が持つ缶ーーー恵比寿の神のパッケージーーーから 鳴り響く。
「……………………」
絶句している私の視線の先で、人影が動く。ゴクッ、と煽る様に一口。もう止まらない。二口、三口。まるで風呂上りにコーヒー牛乳でも飲んでいると言わんばかりの飲みっぷりで、ゴクゴクと液体が喉を通っていく。
え、でもそれアルコールですよね、会長?
「……んくっ、んく、んく」
硬直しきった私の頬を冷や汗が垂れる。
なんだろう。今、目の前で何が起こっているのだろう。
当たり前の疑問が、脳裏をぐるぐるぐるぐる巡る。まるでアルコール、と呟いた脳内の私は早くつぶれて消えてほしい。
だって、文武両道で外国語堪能で全国模試一位で、それでいて、女優顔負けのスタイルとファッションセンスを持ち合わせておられて、加えて深い慈悲を抱き私みたいな平凡な庶民にも優しくしてくれる会長が、
―――私の、憧れが、学園で、ビールを??
なにそれ?
どういう冗談?
こんな光景このまま見えていたら、フラッと背中から倒れそうだよ?
「……ん、ぷは」
うっ、豪快な飲みっぷりだ……美人が酒飲んでるタイプのCMに出たら、それはそれで売り上げ数百倍ぐらいになっちゃいそうな……良い飲みっぷり―――
―――違うっ!そんなところに注目している場合じゃない…!!
唇の端に着いた泡を、指で拭う動作にドキッとなんてしている場合じゃない!
……このままじゃ、『憧れ』が割れて粉々になってしまう。
撤退しよう。
そして、今見たことを忘れよう。
これ以上、「憧れ」という宝石に亀裂が入る前に。
そう思った私がゆっくりゆっくり後ろへと下がる。
会長は多分、ビールに夢中であられる。
静かに真後ろの扉を開ければ、きっと気づかれないだろう。
だけど、ダメだった。その計画は上手くいかなかった。
だって、会長が大声で、完全防音であることを知っているであろう会長が、ハリのある声で堂々と―――
「やはりビールは、至高!
―――そう、おっしゃったのだから。
あ、ちなみにそれを聞いて私がどうなったかは簡単で。
フラッ、と体から力が抜けて、額が床に激突することになりました。
人間、ぼっきり心が折れて気を失うと前に崩れるらしいですよ。えぇ。
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