第19話 ターボチャージャー
「ターボチャージャー」
8月18日に新型のフェアレディZ(Z35?)が公開されました。
Z34を、それこそ身を削りながら維持しているワシにとっても、久しぶりに嬉しいニュースです。
新型Z。実物を見たことがないので何とも言えませんが、ええちゃあええですねえ。何よりもこんな世の中なのに、新型Zを開発してくださった日産の方々に感謝いっぱいです。
今回のZの心臓は3000ccターボエンジンです。あのスカイライン400Rと同じ400馬力のエンジンだそうです。マニュアルで操作したらさぞかし楽しいのだろうと容易に想像できます。ワシの34Zは3700ccのNAの336馬力です。この馬力でさえ還暦を過ぎたワシにとっては相当持て余し気味なのですが、それでもぜひ乗ってみたいのうと思います。
実はワシは現在、ターボチャージドエンジンのクルマを2台所有しています。ハスラーと8年落ちのフォレスターです。
ハスラーはこの頃流行の典型的なダウンサイジングターボです。全体的に力強く、いつ加給が始まったのかほとんどわかりません。フォレスターの方は、ちょっと昔のターボエンジンの特徴が残っていて、アクセルを踏み込むとちょっと間があって、3000回転を超えた辺りからグイーンと、いかにもターボエンジンらしくとても天井知らずの加速をはじめます。どっちが楽しいかと言えば、乗りやすさを置いといたら、やはり昔のドッカンターボに近いフォレスターの方がワシの好みです。
初めてターボ車を所有したのは、忘れもしない1983年の春のことでした。ブルーバードSSSターボでした。ワシの自慢のレビンがゼロヨンであっさり負けて「バックカローラ」と揶揄されるようになってから一年後のことです。ワシは頼みこんで、そのブルを譲ってもらいました。
今考えると、典型的なドッカンターボでした。というか、メーカにさえ、今ほどの緻密な制御技術もノウハウもなかったので、ドッカンターボにならざるを得なかったのだと思います。ご存じのように、エンジンの効率は「圧縮比」に左右されます。「圧縮比」が高ければ高いほど燃焼効率が高くなるので、高性能につまり力強くなります。現在のNAエンジンは「11」とかいう圧縮比のものばかりで技術の進歩に驚くばかりですが、ワシらの頃つまり1980年代は、「9~10」ぐらいが普通だったと記憶しています。
そんなら「圧縮比をどんどん上げればええやん。」と思われるかもしれませんが「圧縮比」はむやむやたらに高くできません。なしてかというとエンジン内の圧力が高くなりすぎると異常燃焼を起こしてエンジンが壊れるからです。その前兆がかの有名な「ノッキング」です。ようするにプラグで意図的に点火する前に勝手に燃えてしまうのです。これを防ぐためには発火しにくい(オクタン価の高い)ガソリンが必要です。つまり高圧縮比のエンジン(高性能エンジン)のはハイオクガソリンが不可欠になってくるのです。だから「ハイオク指定」のエンジンが今でも存在するのです。こんな話を始めたらとても長くなってドン引きされてしまそうなので本題に戻ります。
ようするに、昔のターボエンジンは、異常燃焼を防ぐためにNAエンジンよりも「圧縮比」をぐんと落としてターボチャージャーを装着していました。そしたらどうなるかというと、ターボが効いていないとき(低回転)では、ただのまぬけなスカスカの低圧縮エンジンになります。そしてある回転数でターボが効き始めると目が覚めるようにパワーを一気に発揮するのです。はじめチョロチョロ、中がなくてどっかーんとパワーが出ます。こういう特性のエンジンを「ドッカンターボ」と呼んでいたのです。
でもこの「ドッカンターボ」、乗ってみるといかにもターボエンジンという感じでとても面白かったんです。例えばワシのブル。はじめは遅くて先行を許してしまうのですが、途中から「キーン」とターボが効き始めると無限のパワーが出たような感じがして、それこそあっという間に追いついてあっという間に抜き去ってしまう。これが面白くてワシはターボエンジンの虜になり、その後しばらくはターボ車を買い続けました。
それで幸せじゃったかというとそうでもなくて、たぶん速くはなっていたのだろうと思いますが、なんちゅうかだんだんマイルドになっていったというか、ターボらしさが薄まってきたというか、なんか初期のターボエンジンほど楽しくなくなってきたのでした。
ワシが就職したころは、男の趣味と言えばクルマでした。あいさつ代わりに
「何に乗ってるんですか?」
聞くのが当たり前で、それからクルマ談議が始まって、たとえ初対面の人でもそれは盛り上がったものでした。それからそれなりのクルマに乗っていると、ワシのように仕事はまったくできなくても、職場で一目置かれる存在になることができました。良き時代じゃったのうと思います。誰よりも早く走りたいとか運転が上手になりたいとかいうのもあって
「S〇Xと運転は下手だと思われたくない。」
という言葉は、当時の男どもの価値観を上手く表していると思います。
ワシの大親友が角目の「セリカLB1600GT」というちょっと早いクルマに乗っていました。一応当時としてはすげえのうと思われていたツインカムです。ワシのレビンとはええ勝負をしていた(同じ2TGというエンジン)のですが、ワシがSSSターボに買い替えたとたんに(直線では)勝負にならなくなってしまいました。今考えるとこっちの方が200ccエンジンが大きいので当たり前っちゃあ当たり前のことですが、彼はたいそう悔しがって、それでもこのセリカが大のお気に入りだったので乗り換えるのは嫌だし、それでもワシのSSSターボをぶっちぎりたいしエンジン載せ替えるお金もショップもないしで、いろいろ考えて決めたのは当時ちょっと流行っていた「ボルトオンターボ」を取り付けることでした。
彼はさっそく30万円借金して、ショップに行きました。そうして待つこと半日ぐらいで、「セリカLB1600GTターボ」が完成しました。エラく早いのうと思われるかもしれませんが、ターボ取り付けただけで、ガスケットを交換して圧縮比落としてエンジン保護しようとか、足回りとかミッションとかブレーキとかエンジンの熱対策とか、そんなことは一切考えていないのですから、ただのポン付けですからこんなものだったと思います。
さっそく二人で乗ってみました。
「おお速い。速くなったのう。」
確かに速くなっています。圧縮比そのままですから低回転では今までと変わりなくスムーズで、それでも3000回転超えてターボが効き始めるとグーンと背中を押し付けられるようなターボ特有の感覚があって、こりゃ確かに速くなったのうと思いました。
どれぐらい速くなったかということで、ワシのSSSターボと競争してみることにしました。いつもの河口沿いのゼロヨンコースに夜持っていって、二台並んで「よーいどん」したら、信じられんことにええ勝負します。すごい。彼もワシもとても満足して嬉しくて、その晩は二台で走り回ったものでした。
そしたら一週間後ぐらいに電話がかかって来て、エンジンが壊れたので迎えに来て欲しいという。ショップに行ったらものすごく深刻そうに彼とショップのメカの人が話していて、エンジンが壊れそうだと言っていました。それでいろいろ相談して、結局ターボを外して元に戻すことになって、セリカターボはわずか一週間で幻と消えたのでした。借金だけを残して・・・。
それを見て「バカじゃのう。」と密かに思っていたワシも、何を血迷ったか「加給圧」を上げる部品を取り付けて調子に乗ってか知りまわっていたら、ある日エンジンから異音がするようになって、日産に行ったら「タービン破損」と言われて、高い高い授業料を払う羽目になったことは、以前にお話しした通りの愚かな行為です。
「ターボチャージャー」は、比較的簡単にパワーアップできて、速さが体感できて楽しいチューンアップですが、エンジンにものすごく無理させるのでエンジンの寿命が縮むという諸刃の刃的な方法でした。
あれから30年以上が経過し、技術がものすごく進歩し燃焼の解析も進み、緻密な制御が可能になった現在では、もう壊れるということはないと思いますが、それでもオイル管理など繊細な部分も残っています。でもターボにはターボでしか味わえない「味」があります。その「味」というか「癖」も現代のターボ車に乗ってみると、ものすごく薄くなっていて「確かに速いけどなんか楽しくない。」というパラドックスに陥っていると感じるのはワシだけなのでしようか。
新型Zのターボエンジン。どんな仕上がりになっているのか楽しみですが、今のワシには買い替える財力も気力も余裕もないので、ただ指をくわえて見ているしかありません。
Z35、ワシのZ34より遅かったらええのう(←本音)ワシってなんて小さい人間なんでしょう(笑)
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