第17話 ゴルフじゃあない!
「ゴルフじゃあない!」
この前、クルマ友達が退職金で買ったVWゴルフを見せびらかしにやってみました。さっそくちょっとドライブに行こうというので、ちょっと西の方の海まで行って「瓦そば」を食べることになりました。二人ともワクチン接種の一回目は終わっているし、二回目を接種した後だったら、副反応でこの世にいない可能性もあるので、これが最後のドライブかもしれません(泣)ということでさっそく出かけることにしました。
これは、たぶんゴルフⅦなのでしょうか?パッと見て、青くて平べったくて大柄で、室内は豪華で車体の剛性も高そうで、「こりゃあええクルマじゃのう。」と思いました。何よりも新車の匂いはええものです。
「ちょっと運転させてくれん。」
と聞いたら、すぐにOKが出たので、結局、うちの家からずっとワシが運転していくことになりました。なんかがっしりしていて、エンジンも下から力強くて、乗り心地もバシッとしていて、それはそれはええクルマじゃと思いました。ワシが所有しているどのクルマとも違う運転間隔や雰囲気。それはきっと外車だけが持つものなのでしょう。ワシも欲しいのう。でもこの春から無職になったし、退職金も使い果たしたし、宝くじでも当たらん限り、そんな余裕は微塵もありません。
でも、ワシ、そのとき思ったのです。
「これって、ワシの知っているゴルフじゃあない。」と
何を隠そう、ワシはゴルフの中古車を2年間所有したことがあります。バイト先の先輩が所有していたおしゃれな黄色いゴルフに魅せられて、マネしてたしか30万円で購入した1600ccのシルバーの3ドアのゴルフⅠでした。
何に魅せられたかって。それは運転のしやすさと走りでした。
当時、若造でクルマのことなんか何も知らなかかったワシは、クルマは低いほどええと思っていました。そして運転姿勢は、ストレートアームで寝転んで運転する方がええと信じて疑っていませんでした。50年式のセリカLB,55年式の71レビン、それからレンタカーにあったシルビアや友達のRX-7、先輩のランサーセレステやバイオレット、それから周りにある国産車も似たような運転姿勢のどちらかというと平べったいクルマたちでした。
そのとき、周りのクルマと一線を画するほど違和感の塊だったのが、FFの麻生さんのレモンイエローのゴルフでした。カクカクしていて細くて背が高くて、ガラスが直立していて変な形じゃのうと思ったのが第一印象でした。でもなんかおしゃれというか知的な雰囲気ではありました。だいたい20時にバイトが終わって店を閉めて、帰りは同じ方向でしたので、いつもワシのレビンと競争しながら帰りました。こっちはトヨタが誇るツインカム2TG。115馬力もあるのですが、なぜか80馬力ちょっとのゴルフの方が明らかに速い。なぜか出足が速い。コーナーも速い。腕の差と言われればまったくそのとおりなのですが、それにしてもこちらは一応トヨタの誇るスポーツカー、レビンですよ。あっちは車高の高い変な形のファミリーカー。負けるはずがないのに負けてばっかりでワシは不思議でたまりませんでした。
その秘密がわかったのが、頼み込んで少し運転させてもらったときでありました。ワシの記憶が確かならば、このゴルフはとても運転しやすいクルマでした。
乗ってみてびっくらこいたのは、シートの高さというか運転姿勢でした。一言でいうと「直立」です。シートががっしりしていて大きくて、背もたれが立っていて床からも高い。ようするに、ワシがいいと思って疑わなかった寝転び姿勢とは真逆の姿勢といったらわかりやすいでしょうか。なんか「短く高く」という感じでちっともスポーティーじゃあない。んですけど、視線が高くて周りが良く見えて、とても運転しやすい!
エンジンは普通のOHCだったと思うのですが、アイドリングの時から「ドッドッドッ」という感じで、それから低速から非常に力強い。シート生地とか内装とか質素でしたが、ハンドルやブレーキ、シフトレバーなどが異様にがっしりしていて、中身がぎっしり詰まった美味い「高級もなか」のような感じがしたのを憶えています。
当時のワシたちは、「エンジンが何馬力」とか「ゼロヨン何秒」とかそんなことでクルマを見ていましたので、スペック的にはまったくたいしたことのないゴルフなんか舐めていたのでした。でも実際に走ってみたら、その速さや運転のしやすさや、音や振動にすっかり魅せられ、ワシも機会があったら欲しいのうと思っていました。でも当時は「外車」なんて水物もええところでしたので、そこまでして買うことはないと思っていたのでした。
それから数年後、ワシはヤナセの中古車ではなくて、街の中古車屋さんに転がっていたシルバーのゴルフに出会い、程度の割に二束三文的な価格だったので購入に踏み切ったのでした。
ワシはすぐにヤナセに持ち込んで整備してもらいました。思ったよりはずっと安くて嬉しかったのですが、ワイパーとコンチネンタルの純正タイヤだけが高かったのを憶えています。それから2年乗りました。初めての外車は、国産車に比べるといろいろと不自由はありましたが、とても楽しかった。なんか目から鱗が落ちることばかりで、クルマというものの見方がものすごく変わったのを憶えています。
というわけで、新型?ゴルフですが、確かにええクルマですが、ワシもやると言われたら喜んで貰いますが、
「これはワシが知っているゴルフじゃあない。」
というのがワシの感想でした。
VWゴルフとは、ものすごく考え抜いて作られた世界のベーシックカーでした。何を考えたかというと、おそらく人間工学です。どうしたら乗りやすいクルマができるか。運転しやすくて視野が広くて、見切りがよくて、安全なクルマができるか。無駄に大きくせずに、4人がきちんと乗れるか。クルマが忠実に動くか。思う通りに走り曲がり止まるか。燃費がいいか。それらをものすごく考えてパッケージングして、あの四角くて車幅が最小限に抑えられていて、ガラスが垂直に近くて、屋根が高くて、タイヤが四隅で踏ん張っていて、オーバーハングも最小で、エンジンミッションも最小限で、それでも走りで他のクルマに劣ることもなくて、ブレーキがよく聞いて全体的に剛性感があって安心してドライブできる、それが当時の見てくれだけの国産車なんか寄せ付けなかったゴルフのすごさだと思います。
ワシは実は薄々気が付いてはいたのです。街でよく見かけるようになったゴルフ。えらく大きく低くなったのうと。正確に言うと、車幅が広がって平べったくなって、これじゃあ本来のゴルフの良さを台無しにしとるのうと。
それが今日運転してみて、その通りになっていたというか、自分の読みが当たっていたことがえらくショックでした。
ゴルフⅦ。確かにええクルマでした。ゴルフという名前じゃあなかったらと、ワシはそれだけが残念でなりません。
藤原紀香だと思っていたら、橋本環奈じゃった。そういうことですかね。橋本環奈も嫌いではないですけど・・・。
(追記)
ワシはゴルフを知ってから、Zのようなスポーツカーを除いてですが、運転ポジションの高いクルマが大好きになりました。それでしばらくの間は、クーペを辞めてセダンに乗っていました。今はクロスビー、キューブが家にありますが、どちらも運転姿勢と車幅にもこだわって選びました。
この頃のクルマは、設計上、衝突安全性等いろいろ考えなければいけないこともあるとは思いますが、背が低くてシートポジションも低くて、床の近くに寝そべって運転することをよしとするクルマが多いように思います。それから車幅。170cmを超えると街乗りではものすごく運転しにくい。これが今の日本のコンパクトカーのスタンダードです。ワシは仕方なく(でもないですけど)軽自動車に日頃は乗っています。病院に行っても買い物に行っても何のストレスも感じないこのサイズが大好きになりました。
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