第238話 時間はある
もう少ししたら夕食の時間だ。
夕食は一階のレストランに行っても良いし、部屋に運んでもらうこともできる。
宿の一階に併設されたレストランはちらりと見ただけでも高級感漂う雰囲気だった。気のせいでなければシャンデリアもあった。
私は気後れしそうなので部屋に運んでもらうことを選んだ。
バロンやアイギスもレストランでの食事より他人の目がない個室の方が落ち着いて食事ができるだろう。
夕食は何かな。アツアツのグラタンかもしれないな。・・・・この部屋は冷房が効いているので、我慢大会のような様相にはならないと信じている。
でも、アツアツのグラタンにあったかいシチューとホットチョコがセットでやってきたらさすがに暑いような。
外では絶対食べたくない。
『・・・・不揃いな街じゃ』
まだ見ぬ夕食に思考を馳せていたら、隣の椅子の上で前足を舐めていたバロンがぽつりと一言。
言葉の意味が上手く理解できなかったので、ようやく現実世界に帰ってきそうなアイギスのほっぺをつつきながら続きを待つ。
『この街だけではないが・・・・土地も人も家屋も・・すべてが支離滅裂じゃ。・・・・・まるで、本来あるべきものを組み替えたみたいに』
この国の人々は、まるで寒い地域のような習慣を持ちながらも常夏の国に住んでいる。
熱中症になりながらも温泉でホットチョコやグラタンに舌鼓を打つ様子はたしかにちぐはぐな印象を受ける。
それは、この国だけではない。
西の腰痛国も建物はロシアだけれど、食事はイタリアンだった。
街中で見かけた人々も北の方の寒い地域の住民と言うよりももう少し温かいところに住んでいそうな色彩だった。金髪や銀髪よりも茶髪の人が多かった印象がある。
まるで誰かが実在する国や地域や人をぐちゃぐちゃに入れ替えたみたいだ。
まぁ、誰かって、そんなことするのも、できるのも運営しかいないけれども。
いや、でも、バロンの口からそんな話がでると言うことはこの入れ替えに何か意味があるのだろうか。
一考の余地はあると思う。けれど・・・
「そんな意味深なこと言ったって、バロンさん。大爆発ヘアーじゃ格好つかないよ?」
バロンは毛づくろいを続けているけれども、アフロヘアーは未だに直っていない。
何時ものご自慢のさらさらストレートはチリチリごわごわ大爆発中だ。意識を取り戻したアイギスが一目見て固まるくらいにはチリヂリである。
『・・・・・・早く梳け』
むっつりとした顔で言うバロンに水玉色のブラシを構える。
はーい。ご指名入りましたルイーゼが丹精込めてブラッシングさせていただきまーす。
しつこい大爆発ヘアーは根元から絡まっている可能性がある。まずは手櫛で簡単にほぐしてから、ブラシで丹寧に整えよう。
ログアウトまでの時間はある。しっかり、じっくり梳いてアフロヘアーを治そうね!
もちろん、アフロにはなっていないけれども、目を丸くしたまま動かないアイギスもバロンの後でブラッシングしようね!
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