第200話 メタモルフォーゼの推察
クロウさんに出立の挨拶をして広場を出る。
近くに人がいなくなると、すかさずバロンが「みなみ」と鳴く。
うん、わかってるよ、バロン。はやく南に行きたいんだね。私も南へ急ぐことには賛成だ。
春の花は盛りを過ぎて敷き詰められた花びらが絨毯のように地面を彩っている。
その絨毯により残された花々の名残を眺めながら、春の終わりを感じる。
特に地面には薄桃色の花弁が多い。黒に近い焦げ茶の樹木の枝には若葉が見える。
広場の隅に顔を出し始めた青紫色の花は初夏の訪れを告げているが、暦の上ではまだぎりぎり春である。
かろうじてまだ夏は来ていない。
クロウさんの話を聞いて思ったのだけれども、東西南北それぞれに適した旅行シーズンがあるのだ。
それに従った方が得策なのではないだろうか。
いや、分かっている。これから南に向かうことは覆しようのない決定事項だ。それは仕方ない。
けれど、せめて、夏に南へ向かうことは避けた方が良いのではないだろうか。
だって、思ったのだけれど、ハンスや大魔王がメタモルフォーゼしたのって、春だったからじゃない?
もしかしなくても、東の最勢期である春に行ったから、あいつら変身したんじゃないの?
だとしたら、夏は避けた方が良い。今ならまだ春の内に南を駆け抜けられるかもしれない。
そうすれば、東に続く悪夢に遭遇しなくてすむだろう。
と、言うことで急いで南に向かいたいわけだが、南門へ向かう運河の停留所にて例の船守のお兄さんを見つけた。
方向感覚が狂っている疑惑のあるお兄さんだ。私がアリアさんから迷子癖改善の依頼を受けたお兄さんである。
『・・・・・・奴の船に乗ったら南にたどり着けないのではないか?』
「・・・大丈夫だよ。解決策も用意してあるし・・・・・・」
運河は真っ直ぐに見えて気が付くと曲線を描いており、予期せぬ方向に転換してしまうことがあるようだ。
以前地図を見ながら船に乗せてもらった時に気が付いた。
だから、お兄さんが途中で曲がってしまわないように地図を見た私のナビゲートを受けながら走ってもらえば無事に南へたどり着けるはずだ。たぶん。
「あっ、君はあの時の・・・・!ルイーゼさん・・でしたか?」
「こんにちは。この度、依頼を受けたルイーゼです!一緒にお兄さんの船が無事に目的地へ着ける方法を探しましょう!」
所在なさげに船の上で佇むお兄さんへ近づけば、こちらに気が付いたお兄さんから声がかかる。
アリアさんから話を聞いた様子のお兄さんへ改めて自己紹介しつつ、共に迷子癖改善方法を見つけることを誓う。
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