第179話 アニマルビデオ
「それより・・・そろそろあれがくるよ!気合い入れて!」
早くも、大魔王の体力が尽きようとしている。
おそらく、またメタモルフォーゼして無敵モードに入るだろう。
今度はきめポーズなしで変形してほしいな。なんて無理だよね、分かってる。
大魔王の決めポーズ入りまーす。決め・・・・何か前回と違うな?
首元に手を当てながら雄叫びを上げている。そのまま空中に飛び上がり、グリコのポーズ。
「これはまさか・・・・!」
知っているの?おもちゃさん。
「キュートナハニーだ!」
可愛い蜂蜜?違う、大昔に放送してたアニメのことか。
大魔王が胸元で両手を交差させると大魔王の着ていた衣装が細切れに破れて、もふもふの羽毛が姿を現す。
なかなか素晴らしいもふもふ具合であるが、大魔王のおはだけとか別にいらない。
触れないもふもふに意味はないのである。アニマルビデオとか大好きだけれど、触れないもふもふに価値はないのだ。
どんなに素晴らしい羽毛でも触れなくては価値はない。触れないもふもふを見ても手が疼いてつらいだけである。
あの、もふもふ触りたいな。ほら、鳥ってかんじの艶のあるつるつるした感触も悦なものじゃないか。くそぅ、触れないもふもふが憎い。
「来るよ!足上げて!」
もふもふを見ているうちに大魔王のメタモルフォーゼが終わった。
今回はお着替えがはやかった。一瞬で修験僧のような衣装が破れて脱げて、可愛らしい黒と桃色のふりふりルックに変化した。
やっぱり、ポーズはグリコに似ている。
大魔王は上げた左足をそのまま一歩前に踏み出して、万歳した両腕を振り上げたまま後ろにのけ反る。
はい、イナバウアーですね。さっき見た。
惜しむらくは胸元が布で覆われているため、ふくふくと膨らんだ胸毛が見えないことである。
かわりにさらけ出されたお腹の毛を見ておこう。急所をさらけ出しおって、少しだけ、指先だけで良いから触らせてくれないかな。
「ルイーゼ!前!」
アイギスの呼び声に前を向けば、かなり近くに例の記号が近づいて来ていた。
白の逆L字形は、たしか左だ。左足を上げる。大丈夫。今回は覚えてる。猫獣人の底力、抜群の運動神経を見せてやろうじゃないか。
「ふごっ」
「ルイーゼ!?」
指示の通りに左足をあげたらバランスを崩して転けた。
なぜ?ちゃんと勢いよく足を上げたのに。後ろに蹴りあげる形で上げた足の勢いのままに前方へ転倒。
地面に倒れる前に両手をついて顔面接触は避けられたが、猫獣人の威信は示せなかった。
おかしい、私は向こうで速さでごり押ししながらポーズをきめてるバロンと同じ、猫なのに。
これじゃあ、アニマルビデオでよくある成功例と失敗例じゃないか。
先に華麗に机に飛び移る親猫を真似して失敗する仔猫。ぴょーんと飛んだ瞬間に足を踏み外して下にボッシュートされるまぬけな仔猫である。
成功例な猫は勿論、バロンである。やめて、比べないで。バロンさんは出来すぎるんです。
「ぅう゛う゛ぇ」
一度ならず二度も失敗するなんて悔しい。
地面が近いよ。離れられないよ。握りしめた草の匂いが鼻孔を満たす。
アイギスが心配した頭を撫でてくれている。
うう、アイギス、ありがとう。気にしないで、大魔王の攻略に集中して。前回、最後まで残ったアイギスは攻略の上で頼みの綱なんだから。
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