第172話 混沌の称号


「一度目の破邪の錫音とともに審判を下し、被神譴者の足元に杭を打ち込むようだ」


リーダーさんはウォトカショックにより錯乱しているため大魔王のいかずちに関する考察を放り投げてしまったようだが、リーダー不在の穴はサルミアッキさんが埋めてくれるらしい。


冷静に状況を分析し、大魔王の落雷の仕組みを解き明かしてくれた。


己の考察結果を述べながら、落雷跡に残された杭を指し示すサルミアッキさん。


しかし、言っていることが高度すぎて私には理解できなかった。


ちょっと私の辞書に載っていない言葉がいくつか出てきていて何を言っているのか分からない。


日本語でお願いします。もしくは電子辞書をください。


半口を開けて疑問符をたくさん頭上に浮かべた私、そのすぐ側ではリーダーさんが現実を上手く自分の中で消化できずに感嘆符をとばしながら頻りに二度見を繰り返している。カオスだ。


さすがは混沌のサルミアッキさん。混沌とした状況をつくり出すのが上手い。


いや、混沌はおもちゃさんのものだったっけ?件のおもちゃさんは前方で真面目に大魔王と闘っている。


うん?なにやらおもちゃさんがお父さんにどつかれている。隣からお2さんも何か怒っているようだ。おもちゃさんは何をしたのだろう。


おもちゃさんはここに来るまでの道中でも、ふらっと消えたと思ったら大量の蚊を引き連れて戻ってきたり(すべてバロンが血肉に変えた)、


木の前で何かごそごそしてるなと思ったら降ってきたウサギの山に押しつぶされたり(少し羨ましかった)、色々あって一部森を焼いたりしていた。


距離が離れているため詳細は分からないが、ボス戦中もおもちゃさんは何やらやらかしているようだ。



ふと顎のあたりに何かが当たり、雲の上に飛んでいた意識が現実に戻ってきた。


見れば、ぽけ~と半開きにした口をアイギスが肩から必死に手を伸ばして閉じさせようとしていた。


ありがとう、アイギス。年頃の女の子がする表情じゃなかったよね。


己の顎を押さえて開きそうな口を閉じる。


ほどなくして、リーダーさんも帰還した。おかえりなさい、リーダーさん。


頼りになるリーダーさんはサルミアッキさんの言葉を引き継いで皆に指示を出す。



「奴が錫杖を打ちならしたら、すぐさまその場を飛び退いて!それで落雷を避けられるはずだよ!」



雷の落ちた跡には必ず避雷針のような杭が残されている。


この杭は大魔王が一回目に錫杖を鳴らしたタイミングで落雷の対象者を選び、その足元に出現するらしい。


そのため、一回目の打ちならしの時にその場から飛び退けば落雷を避けられるとリーダーさんは考えたようだ。





「来るよ!飛んで!」



合図とともに全員一斉にその場から飛び退く。いや、全員と言うと語弊がある。


ウォトカさんと筋肉さんは飛んでいないから。


かわりに、ウォトカさんは合図とともに手に持った鍋を放し、筋肉さんは木の像に変わる。


それぞれが落雷への対策を取り、大魔王の雷を防ぐ。


そうして嵐が過ぎ去ったら、回復職は回復を、身軽な前衛は攻撃を、盾役のウォトカさんは放り出した鍋を拾い大魔王の反撃に備える。


体力が半分を切った大魔王は前衛後衛関係なく無差別に時間差なしで落雷攻撃をしてくるが、落雷以外の攻撃も間に挟んでくるので気が抜けない。


雷が来ると思って飛んだら、強風に煽られて飛んで行っちゃいましたとかありそうで怖い。私やアイギスは特に。


今は、リーダーさんが大魔王の動きを観察し、合図を送ってくれるので皆何とか攻撃をやり過ごせている。


ぎりぎりのところで持ちこたえながらも、果敢に大魔王へ攻撃を続けたことでこの戦闘にも終わりが見えてきた。


大魔王のHPは残りわずかだ。やった!あと少しだ。私、この戦闘が終わったら、朝までぐっすり眠るんだ。


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