第86話 冒険者ギルドって便利


「冒険者ギルドの依頼ボードを見ましたか?」


クロウさんは仕方がないと言うように苦笑して、質問を変えた。



冒険者ギルドの依頼は今のところ維持依頼しかこなしていない。そのため、依頼ボードも遠目に眺めただけで、そこに書かれた内容も知らない。


今度ギルドに行った時には一度、依頼の内容を確認してみるべきだろうか。


おそらく、依頼用紙を見れば日付の記載もどこかにされているのだろう。クロウさんの質問の意図をそう予想しつつも首を振って、見てはいないことを伝える。



「各ギルドの連絡板の上には、依頼などで日にちを間違えないようにその日の日付が提示されています。


冒険者ギルドの依頼ボード上には冒険者向けに十干十二支による日付と数字による日付が併記されています」


クロウさんは私が依頼ボードを蔑ろにしていると知って、その有用性の一つを教えてくれる。


というか、依頼用紙に記載されてるとかでなく、直接依頼ボードに、しかも難しい方と数字で分かりやすい方、両方が提示されているらしい。


日付が分からなかったら冒険者ギルドに行けば答えが分かるんだな。覚えておこう。



「大体、どこの国のギルドもボードの上に日付が表示されています。記載がなくても、冒険者ギルドなら受付で質問すれば教えてもらえるでしょう」


冒険者ギルドって便利なんだな。まさに冒険者お役立ちのギルド。


困ったときにはギルドへ聞きに行けばいいかと日付を覚えることを諦めかけた頭にクロウさんの釘差しが響く。



「ただし、農村などでは十干十二支を使用した日付しか通じません。ギルドも存在しない場合がほとんどなので、十干十二支の暗記は必要でしょう。


冒険者ギルドには農村への出張依頼も貼りだされていますし、依頼を受ける上で必要になることもあります。」


はい、先生。了解であります。



「それに、十干十二支を覚えているとギルド側の覚えもよくなり、美味しい依頼を教えてもらえることもありますよ」


クロウさん曰く、十干十二支を記憶している冒険者は教養のある人物と見なされ、知識や頭脳を必要とする通常の冒険者には難しい依頼や


依頼主との会話が必要なため素行に不安のある冒険者には任せられないような依頼も積極的に回してもらえるらしい。


その他にも、ギルド側の評価が高いと色々と融通とまではいかなくとも気にかけてもらえるらしく、ギルドの階級も上がりやすいそうだ。


そのため、クロウさんは将来冒険者になると表明している子であっても、冒険者になるなら尚さらに十干十二支を叩き込むのだという。



「今度ギルドに行く時には依頼ボードの確認を忘れずに行うとして、今日は以前の一覧表を持っていますか?」


促されるまま、ポーチの中から一覧表を取り出す。


一覧表は繰り返し使用するためか紙ではなく木でできており、木簡の表面に焼き鏝などで十干と十二支のそれぞれの表記と読み方が焼き付けられている。


また、その下には十干と十二支の組み合わせと数字、その読みが表になっており、表には子供にも理解しやすいように木火土金水のイラストも烙印されている。



「今日の日付が・・・・・」


クロウさんは手に持っていた松明を一番近くにあった建物の壁に取り付けられた燭台に置き、空いた右手で表を指さす。


クロウさんの指は思っていたよりも節くれだった男の人の指をしている。


けれども、手入れでもしているのかささくれなどはなく、つるりと滑らかで短く整えられた爪が木簡の上を動く。



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