第36話 地鶏の誘惑

前回のあらすじ

・バロンの三分クッキング「もふもふ狼が三枚の毛皮+αに早変わり」

・ルイーゼはフロストウォーカー付の靴を手に入れた!

・砂漠なう






バロンによる狼いじめが終了した後、周囲の霧は晴れ、水も陽炎のように揺らめいて消えていった。後に残ったのは一面の砂の山。


砂漠というと昼夜の寒暖差が激しく、昼間は太陽が照りかえり暑い印象がある。しかし、この砂漠は太陽が元気なことは変わらないが暑くはない。



「どこに進めばいいんだろ……?」


右を向いても、左を向いても砂山しか見えない。目標物が見当たらず、一瞬で方向感覚を失い迷子になりそうだ。


西の大国、虎の国だったかがどちらにあるのか判断できない。



「あ、地図!」


メニューから地図を呼び出す。


大部分が真っ黒な地図だ。行ったことのある場所のみ白く表示されて、通ったことのある道のみが記録されている。


とりあえず、先程まで海岸沿いに真っ直ぐ西へ進んでいたようなので、そのまま真っ直ぐ進んでみようと思う。


こういう時にキャラクリで見かけたナビゲートを持っていたら。進む方向が何となくわかったり、地図に目的地が表示されたりするのだろうか。



砂漠を進む。モンスターは変わらず、わしのカーちゃんと蛇。


カーちゃん、トーアーちゃんとは離婚したの?一緒にいるかと思ったたかのトーちゃんの姿が見えない。


砂漠にはトーちゃんはいないようだ。



ダンデなんとかの嗤い栗鼠りすはいるようで、砂に同化して見つけづらいがケタケタとどこかを指さし嗤っている姿がかろうじて認識できる。


バロンは嗤い栗鼠を優先的に駆除しているみたいで、姿を認めるとすごい速さで駆け寄り踏みつぶしている。


うん、まぁ、神経を逆なでしてくるような栗鼠なので、バロンの対応で正解だと思う。



『…個奴、バフ能力があるようじゃ』


栗鼠の退治を終えたバロンが呟く。


「バフ能力?」


バフ。ゲームキャラクターやモンスターの能力を強化すること。


例えば、攻撃力にバフを掛けて攻撃の威力を上げたり、敏捷力にバフを掛けてもっと早く動けるよう補強したりする。


私が最近取得した鼓舞もこのバフ能力にあたる。



あの嗤い栗鼠がそんなバフ能力を持つらしい。あの嗤い栗鼠が。


『うむ。個奴の嗤い声によって周囲の魔物は怒り状態となり、力や速さが増すようじゃ』


俄かには信じがたい気持ちでバロンに視線を向ければ、もう少し詳しく説明してくれた。


怒り状態にすることで強化する。それなら納得である。



「それで栗鼠を優先的に倒してたんだね」


相手の持つスキルを見極め、優先順位を判断しながら倒していたなんて、バロンさん格好いい。


感嘆の眼差しを受け止めてバロンの尻尾が優雅に揺れる。尻尾の動きまで洗練されていて、素敵。



バロンの輝かしい御姿ならいつ迄も見ていられるけれど、砂漠で野宿することになるのも嫌なので出発することにした。


地面には粒子の細かい砂が堆積しており、歩くたびに足が砂の中に沈み込んで運歩の邪魔をする。


無駄に足腰に力が入り、現実だったら明日は筋肉痛に悩まされそうだ。



早々に自力で歩くことを諦めたバロンは私の肩の上で周囲に睨みを利かせ牽制している。


バロンの睨みを受けたモンスターは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。モンスター避けもできるなんてバロンさん、万能。


「あ、鳥……」


前方に鳥を発見した。真っ赤な鶏冠を持った真っ赤な鳥である。姿形からして鶏だと推測される。


鶏というと赤い鶏冠に白い羽毛の紅白なイメージが強いが、あの鳥は体まで赤い。


記憶を探れば地鶏は赤色というか、茶色だった気がする。つまり、あの鶏は地鶏。すなわち、あの鶏は美味しい。



「からあげ・・・やきとり・・・てりやき・・・・・・」


脳内を美味しい鳥料理の定番が占拠していく。フライドチキンとか油淋鶏も美味しいよね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る