第298話 栖川村祟り事件2


 曲がりくねった山道を運転し始めて体感時間で一時間を経過した。


「砂橋、この先に本当に依頼人の母親が住んでいるんだろうな?」

「ちゃんと村があるって聞いたよ?」


 砂橋は最後に見かけたコンビニで買った桃のジュースをもう飲み干しているにも関わらず、名残惜しそうにそのペットボトルをまだ持っていた。


「……木しか見えないが?」

「道路は続いてるんだから、なにかあるでしょ。できれば、コンビニがいいな」

「こんな山の中にあったとしても数週間で閉店するだろう」


 俺たちがそんな言い合いをしていると、しばらくして、道路の横には急斜面が見え、その下の方には勢いのいい川が見えた。砂橋は暇だったのか、助手席の窓を開けて、少しだけ顔を出して、その川を覗き込む。


「危ないぞ」

「自然って感じする」

「顔をひっこめろ」

「はいはい」


 砂橋は大人しく顔を引っ込めて、窓をしめた。


「山奥だからかな。もうお盆なのに、そんなに暑くなかった」


 それは幸いだ。遺産整理と言う名の大掃除をするのであれば、軽い運動をすることになる。炎天下の中ではそんなことをやっていられない。


「あ、ねぇねぇ、弾正。あそこじゃない?」


 山を一つ越え、少し平たい土地に出た瞬間に見えた三角の屋根を指さし、砂橋が声を弾ませた。探偵事務所セレストから出発して約四時間。ようやく俺たちは依頼人の母親が住む栖川(すがわ)村に到着したのだ。

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