第294話 緋色の部屋24
砂橋から木村結人の家へと移動するようにメールで指示があり、高瀬に鍵を開けてもらって、俺たちは家の中に入った。
「砂橋さんたちは英雄のところにいるんですよね?」
「ああ、教えてもらった住所に佐川はいたらしい」
送られてきたメールには佐川になにを聞いたかは詳しく書かれていなかった。ただ、木村結人の家に行くようにという指示だけ。
木村結人の家についたとメールで砂橋に送ると返信の代わりに砂橋からの着信が来た。
「砂橋、どうした?」
『試したいことがあるんだけど、この通話をスピーカーにしてくれる?音量は最大にしてね』
俺は言われた通りに耳からスマホを離して、スピーカーボタンを押した。
『あー、あー、聞こえる?』
「ああ、聞こえる」
わざわざマイクテストをしてから、砂橋は通話越しに「それじゃあ、行くよー」と間延びした声を出した。
『ハイ、ロイド。エアコンをつけて』
ぴっとエアコンから音がする。
「は?」
砂橋はこの部屋にはいない。
通話越しの砂橋の声にリモート家電が反応した。
「……まさか、ビデオ通話で?」
『正解。これで、佐川さんが家から出ずに木村さんの家のストーブをつけたのか分かったね。まぁ、本人の自供が一番手っ取り早いんだけど?』
どうやら、砂橋は俺たちにも話しているが、通話の向こうで砂橋と湯浅先生と一緒にいるだろう佐川にも話しかけているのだろう。
自供?
それにストーブのスイッチをいれたのが木村結人ではなく、佐川だとしたら、この事故は、事件となる。
俺は高瀬の表情を見た。口元を抑えて、目を見開いて、電源のついたエアコンを見上げている。
「これは、事故じゃなかったんだな」
『方法はあるってこと。ああ、弾正、高瀬さん。そっちにあるものは何も触らないでね。警察にもう一回調べてもらうから。なんにも触っちゃダメだよ』
俺は昨日、冷蔵庫を開けたりしてしまったのだが、それはいいのだろうか。
「そっちにはもう警察は呼んであるのか?」
『うん、まぁ、調べてほしいこともあるしね』
もしかしたら、佐川がストーブをつけるために言った音声などがどこかのデータに残っているのかもしれない。
「結人は、英雄に殺されて……」
呆然としたように呟く、高瀬から思わず目を離す。震えた声に耳も塞ぎたくなったが、さすがにそれは失礼だとやめた。警察が来るまで彼女が変な行動をしないように見ておかなければいけないだろう。
『あ、猫谷刑事、久しぶり~』
砂橋の声が先ほどよりも遠ざかった。どうやら、佐川英雄の家には猫谷刑事が来たらしい。他にも警察は何人か来ているだろう。
もうすぐここにも警察が来るかもしれない。熊岸警部だったら、知った顔でやりやすいのだが。
『うん。調べてほしいのは、冷蔵庫の中のワインボトルの中身と指紋だよ』
砂橋の言葉に俺は首を傾げた。
火事について調べているのにどうしてワインボトルを調べる必要があるんだ。
『ねぇ、高瀬帆奈美さん』
砂橋の声が近くに戻ってきた。
『今からワインボトルを回収しようとしても無駄だからね』
俺は振り返って、高瀬を見た。
彼女は一切涙を流さずに、俺の手に握られたスマホを鋭い瞳で睨みつけていた。
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