第269話 姿のない文通相手21


「どうして……どうして、俺は一緒に行かなかったんですか……」


 笹川は砂橋から煎餅の箱を二つ受け取るの、自分のデスクに突っ伏してさめざめとそう言い始めた。


 行かないと決めて、チケットを俺に渡してきたのは笹川なのだから、今更後悔しないでほしいのだが。


「一箱はお姉さんにあげてねー」

「……はい」


 ローテーブルでプリンの蓋を早速開けている砂橋の言葉に笹川は顔もあげずに返事をした。


「弾正」


 俺もプリンを食べようとローテーブルに向かおうとしたところ、後ろから地の這うような声が俺を呼び止めた。


「なんだ」

「砂橋さんとのお出かけは楽しかったですか?」


 砂橋とのお出かけは楽しかったかと聞かれても、面倒事に巻き込まれただけだと答えてしまいたくなる。


 しかし、困っていた清水が行くべき場所を見つける手助けができたのであれば、そこまで悪い気分ではない。結局、彼に答えを指し示したのは俺ではなく、砂橋だったが。


「楽しかったぞ」

「地獄に落ちろ」

「どうしてだ」


 俺はため息を吐いて、プリンを食べようと砂橋の向かいのソファーに腰を下ろした。


 三層仕立てのプリンと書かれた蓋を開こうとしたところで、ポケットの中のスマホが振動した。先ほどからプリンを食べようとしたら邪魔をされてしまう。


 スマホの画面を見ると、着信の相手は清水だった。俺は慌てて通話ボタンを押した。


「清水か?その後どうなった?」


 今の時間は八時だ。


 大野百合子に合うことはできたのだろうか。


『弾正さん。ありがとうございました。百合子さんとは会うことができました』


 会うことができたということは、やはり大野百合子の居場所は病院だったのだろう。


『現在、闘病中みたいで……、もしかしたら、手紙のやり取りができなくなるかもしれないと今回の手紙をくれたみたいです』


 電話越しの清水はどこか落ち着いているようだった。


「それで、ちゃんとお礼は伝えられたのか?」


『はい!それはちゃんと伝えられました。それと、次は僕の番だってことも言いました』


「次?」


 通話の向こうからエンジン音が微かに聞こえる。彼のいる場所は道路が近いのか、はたまた病院の駐車場か。


『僕が辛い時に支えてくれた彼女を、今度は僕が支える番です。それを伝えると泣きながら、また来てくれますかって聞かれました。もちろん、また行くつもりですって答えましたけど!』


「それはよかった」


 謎解きをした後に残る結果が、このようなもので俺はほっとした。


 大野百合子がいる場所が病院だと聞いて、少しだけ嫌な予感が頭の中をよぎった。しかし、それも杞憂だったようだ。


『あ、砂橋さんと弾正さんの写真を今から送りますね!あと、今度一緒に百合子さんに会いに行きませんか?謎を一緒に解いてくれた人だって紹介したいんです。百合子さんも是非会いたいと言ってくれてるので!』


「機会があったら、紹介してもらおう」


 謎の手紙を出した女性のことだ。気にならないと言えば嘘になる。


『それじゃあ、また落ち着いたら、連絡しますね!』


 そうやり取りして、俺は通話を終わらせた。

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