第267話 姿のない文通相手19
「チーズとかたくさん種類があるんだね。牛乳とか買っていく?」
「その前に聞いてもいいか?」
お土産コーナーで乳製品の前に立って、どのプリンを買おうかと人差し指の先を揺らしている砂橋に横に店のカゴを持って近づく。
「どうして、今回はこんなにも早く正解を清水に教えたんだ?」
いつもなら、答えが分かったとしても簡単には教えないだろう。自分のみが答えが分かっている状態で頭を悩ませている他人を横目に甘いものを食べるのがいつもの砂橋のやり方だ。
「どうせなら早く行った方がいいと思ったからかな。あと、子供扱いはもううんざり」
砂橋は肩を竦めて、三層仕立てのプリンと銘打たれたプリンを三個程カゴの中にいれた。俺はその隣にある牛乳パックではなく、予想以上に大きな牛乳瓶を手に取って、カゴの中に入れた。
牧場があるというのならば、乳製品は是非とも買っておきたくなるのが観光客としての心理だろう。実際、表記を見ると、この近くの工場で作られたものらしい。
「清水はお前のことを俺の弟だと思っていたぞ」
「見た目で判断したにしてもありえないでしょ。全然似てないでしょ」
「ああ、本当にな」
俺と砂橋に似ているところがあるとすれば、いや、考えても似ているところなど分からなかった。
「それで、清水はどこに行ったんだ?」
「あれ、弾正、自分で緯度と経度の位置とか調べなかったの?」
「最後の数字を打ち込んでいる途中で清水が立ち上がって、折り紙も数字が書かれた画用紙も持っていったからな」
砂橋の説明に促され、俺も清水と同じようにスマホで緯度と経度について調べていたところだった。しかし、清水が慌てて帰ってしまったせいで、俺はその後の数字を検索することもできなかったのだ。
こんなことならば、あの画用紙の写真を撮っておくべきだったと思った。
「じゃあ、ヒントをあげようかな」
もう急ぐ理由はないからか、砂橋はいつもの調子に戻った。
俺が答えにたどり着くまでにやにやしながら待つつもりだろう。
「最後は私のいるところ」
それは水に濡れた画用紙に書いてあった文字は、水に濡らすことによって、大野百合子がいる場所の緯度と経度が現れた。
あの紙には元々水に濡らすと文字が浮きでるように仕込みがしてあったのだろう。
世の中には水のついた箇所が発色するという仕組みのものがあり、乾くと元通りになる。習字の練習やお絵描きの道具などに用いられることもあるくらいだ。
「折り紙を折って、最後に出てきたマークは雫か?」
十字の真ん中にあった雫は、名刺程の大きさの画用紙を濡らして、文字を見えるようにしろというメッセージだったのだろう。
よくここまで手の込んだものを作るなと思う。
清水が自分に会いたいかどうかを確かめるだけなら、大野百合子は住所を手紙で教えればいいのだ。
もし、清水が謎解きを解けなかった時はどうするつもりだったのだろう。
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