第242話 学校潜入編30


「え、ちょっと待って。僕の話聞いてた?」

「聞いてたぞ」


 砂橋は首を傾げた。訝し気な視線を向けられた俺も引いてはいられない。なにせ、俺は生徒達から直接話を聞いたのだ。


 砂橋は確かに現場にいたかもしれないが、俺はいじめがあった二年二組の生徒に直接聞いたのだ。


 庭崎と仲の良かった葛城が殺害されるかもしれないと思い、そして、被害者くんのSNSが稼働しているということは、死んでいるのは葛城颯太だろう。


 聞き忘れてはいけないと俺はSNSを教えてもらった時に依子に葛城の名前を聞いたのだ。そして、葛城颯太だと教えられた。


 だから、間違っているはずはないのだ。


 その旨を砂橋に説明すると、砂橋は感心するどころか、つまらなさそうにテーブルに肩肘を立てて、手の甲に顎を置いて、俺のことを見つめていた。


「僕が言ってるのはいじめ被害者の葛城祐樹のことだよ。同じ葛城だけど、庭崎くんとやらと仲が良かったのは葛城祐樹くんの方なんだよ、弾正。ちゃんといじめ被害者の方の苗字と名前も聞いておこうね」


「……」


 一日に二度も心臓を引きずり出して、窓から身を投げたくなったのは初めてだ。

 俺は真っ青になった窓の外の空を見上げた。

 ここは一階だから、身を投げたところで恥ずかしいだけなのだが。


 砂橋はかわいそうな子供でも見るように小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「いまいち把握できてない弾正のために一から説明してあげようか」


 砂橋の言い方は癪に障ったが、説明してもらわなければ、俺はこの事件のことをいまいち把握できずに終わってしまうだろう。


「弾正のせいでよく分かんなくなったから、また二年二組の生徒達に話を聞かないとね。死体は誰か分かったけど、いじめをしていたのがどちらか僕は分からないし」


 何故、死体がどちらの葛城の死体なのかは分かるのに、いじめの加害者がどちらなのか分からないのだろう。


 俺は疑問に感じたが、もしかしたら、俺と意見が食い違ったことで砂橋を多少困惑させてしまったのかもしれない。


「それじゃあ、私も一緒に行きます」

「大丈夫?七瀬さん、生徒達からいじめの話が聞けるの?」

「……聞けます。聞かないとまた同じことを繰り返すことになりますから」


 砂橋はじっと七瀬のことを見つめているようだったが、やがて頷いた。


「じゃあ、七瀬さんも一緒に行こうか。あ、熊岸警部に連絡しなきゃだから、先に行っておいて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る