第48話 アイドル危機一髪21
桃実やグループの他のメンバー以外にもロッカーを使う人間はいる。虱潰しに探すわけにもいかない。
俺は何かすべきだろうか、と考えていた矢先に砂橋さんから「桃実に指示は出しておいたからメイク係の仕事だけ頑張ってね。あ、でも怪しい人物とか気になることあったら報告してね」とメールが来ていた。
そのメールを見て、そっと砂橋さん専用フォルダに移動させると俺はスマホをポケットの中へとしまった。
「それって家までつけられてるってことでしょ?」
後ろから弾むような明るい声が聞こえてきた。後ろを振り返るとはるかと桃実が向かい合って椅子に腰かけていて、その間には手紙が置かれていた。宛名も消印もない手紙。また新しい手紙が桃実の元に届いたのか。だとしたら、もう砂橋さんには報告しているのだろうか。
「そうなの」
「ももみん、あとをつけても気づかなさそうだもんね~」
はるかは心配しているのか分からないような声音でうんうんと頷く。
「そういえば、桃実って電車通いだったね」
部屋の隅に置いてあるウォーターサーバーから紙コップにお湯を入れた藤が桃実の隣に座った。集合時間にはまだ三十分あるので、苺果と奈々はまだらしい。
「うん。駅からちょっと歩いて帰るの」
桃実の家には砂橋さんがすでに監視カメラを仕掛けてくれているはず。
「いつか駅から歩いてる時に刺されちゃいそうだねぇ」
けらけらと笑いながらはるかが物騒なことを言う。それに伴い、桃実の顔から色が失われていった。ストーカー被害を信じているにしても信じていないにしても無神経な言葉だ。
はるかとは対照的に藤は細い顎筋に人差し指を当てる。
「全員、電車の方向が桃実とは違うから送っていくこともできないしね……北斗さんは忙しいし」
「ね。あ、そうだ!」
はるかは名案でも思い付いたと主張するようにそう声をあげた。
「笹川さんって車で来てるよねぇ?」
唐突に話を振られたが、俺は頷いた。
「はい。車です」
今日もこの建物の隣にある駐車場に車を停めている。仕事が終わったら、寄り道をしつつ探偵事務所に帰るつもりだ。
「だったら、ももみんのこと送ってもらえばいいんじゃない? 車だったら後つけられたりしないじゃん!」
それもそうね、と藤が同意する。桃実は「え、迷惑だよ……」と困惑気味にはるかと俺を交互に見た。
「私は別に構いませんよ。ストーカーに刺されるかもしれないんでしょう?」
外行きの笑顔でそう言うとはるかは自分の提案がすんなり呑まれたことがお気に召したのかその場で小さくぴょんと座ったまま跳ねると桃実の方を見た。
「ね! いいって! ももみん、送ってもらいなよ!」
「笹川さんがいいなら……お願いします」
探偵事務所の人間として潜入している俺がいいと言ったので桃実も素直に従うことにしたのだろう。
苺果と奈々が部屋に入ってきた。今日のダンスは舞台に立った際に衣装の確認なので一応髪型もセットしようということになったのだ。
俺の仕事がひと段落したら桃実を車で送っていくことを砂橋さんに連絡しよう。
数時間後、砂橋さんから返ってきたメールには「ボディーガードみたいだね。頑張って!」とあった。
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