第36話 アイドル危機一髪9
他のメンバーにも似たような質問をしたが、返ってくる答えに有用な情報はなかった。
残りのメンバーである藤、はるか、奈々はそれぞれ「ストーカーは気にしすぎ」もしくは「桃実の虚言」で片づけてしまっている。仮にも仲間が相談しているのに話を聞かないとはどういうことかと思っていたが、はるかの話を聞いて納得するものがあった。
「実は最近ずっとテレビ出演してるの、メンバーの中でもはるかくらいなんですよ~」
長い茶髪を頭の横でツインテールにしているはるかはにこにこと笑いながらそう言っていた。
「クイズ番組の常連で、だからはるか達、仲間っていうかぁ。ライバルっていうかぁ」
だから、蹴落としあいも上等という気持ちも心のうちにはあるらしい。藤と奈々ははるかと違い、周りの仲間を見下している様子や敵視している様子はなかったが「仲間で一致団結しよう」という気持ちは誰にも見受けられないのは分かった。
インタビューを終えて、マネージャーである北斗さんに挨拶をして、その足で社長室へと向かった。堂々と歩いていると意外と誰にも呼び止められない。
社長室の扉をノックすると「どうぞ」という言葉が返ってきた。
社長室にあるデスクに座っている男は五十代の男性。スーツにネクタイ。きちんとした服装は皺が一つもない。
彼がこのアイドル事務所の社長である古畑冬治だ。噂では、桃実が一人でこの社長室に来ていたと言うが、実はもうある程度の予想はついている。
どうやら、顔も知らない僕がいきなり社長室に入ってきたことに驚いたのか、古畑社長は目を丸くしていた。彼が口を開く前に僕はさっさと本題に入ることにした。
「午前中、記者としてフルーツフィールドのインタビューをさせていただきました。砂橋です」
「砂橋……ああ、そうか。君が……」
どうやら、予想は的中したらしい。
「桃実にうちの探偵事務所を紹介したのは、古畑社長ですね?」
「……ああ」
うちの探偵事務所にはホームページや広告などはない。完全に紹介制の探偵事務所だ。きちんと裏が取れている人間、信用できる人間からの紹介で、面と向かって依頼を受ける。それこそ、お得意様は名の知れた人だったりするから、そこからの紹介だったりするのだろうとは思っていたが。
「古畑社長は誰からうちのことを聞いたんですか?」
「羽田グループのことは知っているかい?」
社長は僕にソファーに腰かけるように手で促すと、デスクから立ち上がり、彼は僕の向かいのソファーに腰かけた。
僕は思わず眉間に皺を寄せた。羽田グループといういくつかの会社をまとめあげているグループのことは知っているし、そこの代表取締役社長とも顔見知りだ。彼はアイドル事業にも目をつけたのか。僕は思わずため息をついた。彼とは取引をした時に、僕の言い値でいいと言ったので少々ふっかけたが、小さな仕返しというやつだろう。これから依頼が増えてしまうんだろうな。
「知ってます。彼とは顔見知り以上の仲ですから」
「砂橋くんのことは彼から聞いたんだ」
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