第2話 潮騒館殺人事件2
「砂橋様。弾正様。お待ちしておりました」
潮騒館の前に赤い車が一台と黒い車が二台停まっていた。その隣に砂橋の白い車を停め、玄関へと向かうと車の音で来客に気づいたのか、黒いワンピースを着た少女が俺たちを出迎えた。
「こんにちは。木更津さん」
砂橋が少女をそう呼ぶと、彼女は少し目を丸くし、ぺこりと頭を下げた。
彼女は木更津社長の縁者か。
木更津貴志の息子はまだ結婚していないと聞いていたが、そうではなかったか。
「社長は?」
「野暮用があって遅れるそうです」
「ふーん」
「先に部屋へ案内いたしますね」
彼女の後について建物の中へと入る。
靴は脱がなくてもいい洋風の作り。玄関に入ってすぐにホール。前に左右に弧を描くように分かれている階段。その間に据えられたような一階の大きな扉。食堂の扉かもしれない。そうすると、二階にあがって、右か左の扉の先に通路があり、俺たちが泊まる部屋があるんだろう。
「もう車が停まってたけど、他にはどんな人がきたの?」
思った通り、少女は二階へとあがり、右の通路へと俺たちを案内した。通路に入って三つ目の扉の前に立つと砂橋が彼女に質問をした。
「記者の方と弁護士の方と、羽田グループの会長の息子さんとそのメイドさんがいらっしゃっています」
「いろんな業種の人だ。みんな、社長と仲が良かった人?」
そう聞くと彼女は首を横に振って「私はよく知らないです」と言った。それを聞いて砂橋はこくこくと何度か頷いて「ありがとう」と微笑んだ。
階段の間にあった大きな扉と同じく二階にも大きな扉があった。あれは談話室らしく、来てくれた客を楽しませるためにダーツやビリヤード、チェス、トランプなどの娯楽用品が置かれているらしい。先についた客人はきっとそこにいるだろうと少女は教えてくれた。
荷物を部屋に置いて整理し始めると少女はどこかへ行ってしまい、砂橋は部屋の中にある大きな扉へと駆け寄っていった。
「すごいすごい。ベランダが一部屋ずつにあるんだ。景色綺麗だよ」
砂橋がベランダへと続く大窓を開けると、鼻に潮風が届いた。荷物を整理といっても、スマホに充電器をつけるぐらいしかすることはない。
「談話室に行くか?」
「もちろん。記者に弁護士に羽田グループの息子さん、そして、探偵と小説家。なんだか、一波乱ありそうな組み合わせじゃない?」
「ネタになるなら大歓迎だが、大事になるのは勘弁だな」
それこそ、いつも砂橋といると巻き込まれる事件みたいに、たまに命の危険があるような出来事が起こらなければいいが。
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