第22話 いつも同じ服を着てた
1
「お待たせ」
駅の南口の広場で待っていると、はるっちが階段をぱたぱたと駆け下りてくるのが見えた。
桃色のTシャツにデニムの短パンといった軽やかな服装だ。むちむちの太ももにデニムの裾が食い込んでいるのがエロい。
「待った?」
「けっこう」
「ごめんごめん」
はるっちに電話をしてからもう三十分は経っている。ま、はるっちは隣町の
「とりあえず、マ〇クでも行こっか。うち、お腹空いたし」
「私もまだ晩御飯食べてないや」
駅のすぐ横にはイ〇ンがあり、その中にテナントとして入っているマ〇クにうちらは向かった。あまり混雑はしておらず、楽々と座れた。
「それで、収穫って?」
シェイクを飲み、はるっちは尋ねる。
「んと、今さっき光先輩の家に遊びに行ったんだけどさ、なにから話せばいいかなぁ」
うちはポテトをつまみながら、さっきの出来事を思い返す。はるっちは前のめりになって、うちが話始めるのを今か今かと待っている。なんか犬みたいだ。
「そうだ、まず、光先輩と影山先輩は小学校時代からの知り合いみたいよ」
「そうなの!?」
はるっちはちょっとショックを受けたようで、少し涙目になった。二人の関係が思ったよりも長いことに、よくない想像をしたのかもしれない。
「あー、でも安心していいよ。あの二人は超絶健全な関係で、なんにもないっぽいから」
うちはゼロコーラを一口飲み、ポテトの油分を洗い流す。
「ほんとぉ?」
「……たぶん」
「はっきりしてよぉ」
「話は最後まで聞きなって。光先輩が言うには、影山先輩に彼女ができたって話は聞いたことがないらしいって」
「そうなんだ」
「もし二人が付き合ってたならさ、そんなことは言わないっしょ。それに小中高って同じ人がそう言うんだから、彼女がいるからはるっちとは付き合えない説は捨てていいんじゃね?」
「へぇ……へぇ!」
今度はぱぁっと表情が明るくなる。感情がすぐ顔に出る分かりやすい女だな、はるっちは。まあ、そこが可愛いんだけど。
「そっか、そっか。彼女いないんだ」
はるっちは笑顔でナゲットをつまみ、バーベキューソースにディップする。
「ま、彼女がいないってだけで、誰かに片思い中だから付き合えない説は残ってるけどね」
ナゲットがトレイの上に落ち、ソースが飛び散る。
「そ、そうだったぁ」
はるっちは再び涙目になり、あわあわと視線を泳がせる。
なんか小動物を見てるみたいで可愛いし面白い。
「で、ここからが本題なんだけど」
ひとしきり食べ終え、本格的に駄弁りタイムに突入する。マ〇クってのは話をする場所だからね。
「この前の『偉い人』発言についてなんだけど」
「あっ、もしかして教えてもらったの?」
「うん。光先輩にどういうことなのか聞いてきた」
うちは小一時間ほど前のやり取りを思い出す。
2
「あれはね」と光先輩は真面目な顔になった。
「影山くんちって、お父さんがいなくて、お母さんと二人で暮らしなの」
「え? そうなんすか」
初耳の情報だ。
「単身赴任ってやつすかね」
「ううん、違うの。行方不明なんだって」
「ええっ!?」
思いもよらない言葉に、うちは面食らう。行方不明?
テレビのニュースでよく耳にするけれど、それはあくまでテレビの向こうの話であって、自分の周辺には全く関係のないことだと思っていた。
影山先輩の父親は行方不明……
「なんかの事件とか、事故に巻き込まれたってことっすか?」
光先輩は声を落として、
「詳しくは分からないんだけど、たしか、小学校に上がるか上がらないかぐらいの時にお父さんが家を出て行っちゃったらしくて、それからずっとお母さんと二人で暮らし」
「……そう、なんすか。それって今も?」
「そう。再婚はしなかったらしくて、影山くんは今でもお母さんとずっと二人で生活してるの。昔から、『お母さんの迷惑にならないように』ってのが影山くんの口癖で、みんなと遊ぶことよりも、家のことを優先してたり……」
光先輩は自分のことじゃないのに少し涙を潤ませる。
「私、子供だったから分かってあげられなかったけど、お父さんがいなくなって最初の数年は金銭的にもかなり大変だったらしくて」
一家の支え、大黒柱を失って、大変な子供時代を送っていたということか。影山先輩に対する印象が少し変わったかも。どこか陰のある感じも、今までの苦労の蓄積と考えればたしかに説得力がある。
「偉い人ってのは、そういう意味だったんすね」
思っていたよりも重たい話だ。軽はずみで聞いてしまったことにうちは少し後悔した。
「うん。だから私、影山くんには幸せになってほしいなって思って、小春ちゃんが告白したって聞いた時、すごく嬉しかったんだけど――」
光先輩は涙を拭って、
「なんで断っちゃったのかねぇ?」
小首を傾げる。
「それはうちにも分からないっす」
うちも同じように首を傾げた。
3
「ってわけで、影山家はかなり複雑な家庭環境みたい」
「そうだったんだ」
はるっちは顔を落とし、息をつく。
うちとはるっちの間には沈黙が流れ始め、周りの人たちの雑談や足音が耳に届く。
「私の家はお父さんがいて、お母さんがいて、弟がいて、妹がいて……その生活が当たり前だった。でも、春樹先輩はずっとお母さんと二人きりだったんだね」
どことなくしんみりした空気が流れる。
「それが私の告白を断った理由に関係があるのかな……」
「それはさすがになんとも言えないっしょ」
「そうだよね」
「ただ、そこを結び付けて考えるのはちょっち考えすぎだと思うけど」
「うーん」
はるっちは気まずそうな顔を作ってため息をつく。
「どした?」
「私、春樹先輩のこと、何も知らないんだなぁって」
「……そういうのはこれから少しずつ知っていけばいんじゃね? 恋愛ってそういうもんっしょ。最初から相手の全てを知ってるなんて、答えを知ってるなぞなぞに挑戦するようなもんで全然面白くないっしょ」
「ゆとりん、いいこと言うね」
「まあね」
「彼氏いないくせに」
「うるさい」
その後、サーティー〇ンに寄ってアイスを食べた。
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