第一章:回復屋さんはじめました編
第20話「回復屋さんはじめました」
※新章開幕です。
この章は基本的に一話完結方式の物語ばかりになります。
どこから読んでも楽しめるのが最大の魅力。
ごゆるりとお楽しみください。
―――――――――――――――――――――――――――――
冒険者ギルドでのお仕事がなくなっちゃった。
……
でもあまり気にならない。
冒険者の人たちって憧れるけど、やっぱり見ている方が楽しいもの。
「ね、ねえユーリ。
私、一応A級冒険者よ?
……チラっ」
リリアーナがそういって、私に金色のプレートを見せてくれる。
とっても素敵!
「ず、ずるいですリリアーナ様!
ユーリ様?
私のお父様は、元A級冒険者だった悪人を取り押さえたことがありますわ!」
まぁ、クリスティーナのお父様ってとっても強いのね!
それなら私のお母さんは……と、二人で仲良く話しているのを見ながらメアリーに貸してもらった絵本を開く。
あ、これはお店屋さんの本ね!
パン屋さん、八百屋さん、かじ屋さん、魚屋さん……とってもいろんなお店があるのね……。
お花屋さんかわいい。
いいな、わたしも何かお店屋さんできないかしら?
ねえねえ二人とも……うふふ、まだお話してる。
じゃあ、すぐに戻ってくるからそのまま仲良くしていてね。
お店屋さんに必要なものは、絵本を見たらわかる。
ひとつ目は、机ね。
何か手ごろなものは……あ、あれがいいわ。
ふたつ目は、うりもの。
これはとっておきのキャンディにしましょう。
みっつ目は、看板。
んー。
置いてあった紙に「うります」と書いて……できた!
完璧だわ……!!
「あ、ユーリ様、こんな所でどうしたんですか?」
「うります?
まさか、ここでユーリ様が買えるんですか!?」
二人ともこんにちは。
確かあなた達は……コレットとバレッタだったわね。
「は、はいっ!
名前を覚えて頂けているなんて……こらっ、あんた何してんの!」
「ちょ、邪魔しないでっ!
今ポケットにどれくらい入ってるか確認してるの!!」
二人ともとっても仲がいいのね。
あ、そうだわ。
ここでこんなに素敵なキャンディーを売ってるの、おひとついかが?
「買います!」
じゃあ、ひとつ……いくらがいいかしら?
「ユーリ様のキャンディ……ぜ、全部おいていきます!」
ドスッ、という音につられて見てみると、用意した机の上にピカピカのコインがたっぷり入った布袋が置かれていた。
「ちょっと、それは私に売ってくれるって言ったのよ!?」
「早い者勝ちです!」
困ったわ、とっておきだったからひとつしかないの。
あと、これってお金でしょ?
こんなにたくさんは……あ、行っちゃった。
んー、なんだか思っていたのと違う。
そもそも、あのキャンディは私が買ってきたもの。
せっかくなら、自分で作ったものを売りたいかも。
確かこっちのほうに料理人さんがいっぱい――
立ち入り禁止になっちゃった。
どうしてかしら、皆と同じように作っただけなのに。
まあでも、やっぱりお料理を作るのは料理人さんのお仕事だもの。
私は私に出来ることをしないと……あ、回復スキル!
「ユーリ様、こちらにいらっしゃったのですか。
いったい何をされて……うります?」
こんにちは、メアリー。
私はお店屋さんを始めることにしたの。
でも、キャンディーは買ったものだし、お料理は料理人さんのお仕事でしょう?
だから私は回復屋さんを始めるの!
「な、何となく事情は分かりました。
では、私もお手伝いさせていただけませんか?」
もちろんいいわよ。
じゃあ……ここに「癒します」ってかいてもらえる?
「かしこまりました」
綺麗な字……とっても素敵だわ!
じゃあ、広場まで行きましょうか。
「え、お店はこちらに開かれるのではないのですか?」
そうしようとも思ったけど……ほら見て!
この絵本を見ると、自分のお店の周りにもほかの人のお店が並んでいるでしょう?
「本当ですね。
では、支度をしてまいりますので少々お待ちください」
――
「おい、見ろよあれ!
あそこにすげえのがいるぞ!!」
「なんだ……おっ、回復屋か!
ありがてえっ、最近母ちゃんの具合が悪くて……!」
「ちげえよ、見ろよあの胸!
隣にいる女も年の割には……ぐぇ!!」
メアリーと一緒にお店屋さんの準備をしていると、二人組の男の人がやってきた。
でも、なんでいきなり倒れたのかしら?
「不思議なこともあるものですね」
本当にその通りだわ、でも大丈夫。
私が回復スキルで治してあげるからね……え、回復魔法って言ったほうが良いの?
確かにそっちの方がカッコいいかも。
じゃあ、回復魔法をかけるからじっとしてるのよ。
「いたいのいたいのとんでけー!」
……はい、おしまい。
「え、も、もう終わりか?
まさかインチキ……」
「ぷはっ、い、いや本物だ。
突然腹が痛くて死にそうになったけど、あんたのおかげで助かった。
いくらだ……って、高え!!」
高いって値段の事?
じゃあもっと少なくしましょう。
んー、じゃあこれを一つもらうわね?
「ゆ、ユーリ様!?
これは適正な価格です!
銅貨一枚なんて安すぎます!!」
「待てよっ!
こっちの胸がでけえお嬢さんがこう言ってるんだ!
年増は引っ込んで……ぎゃふん!」
……だから、どうしてあなたは突然倒れるの?
本当に痛いみたいだから治してあげるけど……ほら、大丈夫?
「今なんかその女が……ひっ!
な、なんでもねえ、金はそれしか持ってねえからな!」
ええ、まあこれでいいけど……急に走ったら、またお腹痛くなっちゃうかもしれないわよ。
「そうしたらまた来るでしょう。
それよりこの金額では……」
「す、すまんがうちのお袋もみてもらえないか?
連れが失礼なことを言って悪かった。
あいつの分も俺が払うから……これで足りるか?」
「なんですか、このはした金。
こんなものでは低級ポーションも買えませんよ?」
そういう態度はやめて、メアリー。
私たちは低級ぽっしょんを売ってるわけではないでしょう?
「ぽ、ぽっしょん……可愛い」
メアリー聞いてるの?
「も、申し訳ありません!
ですが、あまりにも少なすぎるので……」
そうなの?
じゃあ、低級ぽっしょんと同じ金額にしたらどうかしら。
「そ、そんな金額払えるわけねえ!
そんな金があったら、とっくにその金で薬を買ってるに決まってるだろ!?」
きゃ!
「ユーリ様にそれ以上近づくのは許しません!」
だ、大丈夫よメアリー、少し驚いただけだから。
それよりも、あなたがお金を持っていないなら、私はあなたに何も売ってあげることはできないの。
「そ、そんな……わかった。
絶対に金を作ってくるから、そしたらさっきの値段で頼むぞ……」
…………と、思うでしょ?
「ユーリ様?」
じゃーん、この絵本のこのページ!
なんと、冒険者さんは「財宝払い」ができるんですって!
「な、なんだそりゃ?」
えっとね、冒険者の人は冒険の最中に宝物を見つけることがあるでしょう?
その時に見つけた宝物を、お店の人に渡す約束をする代わりに、お店でお買い物ができるの!
「しかし、お宝なんてそう簡単には手に入らないだろう?
そもそも俺は冒険者じゃな……い、いや、払うっ!
俺の人生を全て費やしてでも必ず払うから「財宝払い」で頼む!!!」
――
「本当に良かったのですかユーリ様?
あの者だけでなく、結局ほとんどの者が「財宝払い」でしたが……」
いいのよ、ほらあそこ見て?
お店を閉めておうちに帰る途中、さっきの男の人が女の人と歩いていた。
「こんなに気分がいいのは久しぶりさね」
「お袋……よかった、ほ、本当に良かった……」
「こら、人前で泣くんじゃないよ!
今日は久しぶりに、お前の好物をつくるからね?」
「俺、お袋が作るもの、ぜ、全部好きだ……」
「……じゃあ、全部作るまでまだまだ生きないとねえ」
「ああ……ああっ!
生きてくれっ!
俺もっと立派になってきっとお袋を幸せにするから!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないのさ!
だけど……その言葉は相手を間違えてないかい?」
小さな家の玄関の前に立った女の人が目の前の扉を開けると、中から綺麗な女の人が出てきた。
「おかえりなさい、あなた」
「キャス!?
お前は病気で去年死んだはずじゃ……」
「実はね、人に移る病気にかかってもう治らないってお医者様が……」
「まさか、それもあの黒髪のお嬢さんが治して……」
きゃ、こんなところで抱きしめるなんてすっごく情熱的!
とっても幸せそうだけど、あんまり見ていちゃダメよね。
だって、あれはあの人たちだけの「冒険」だもの。
ねえ、メアリーもそう思うでしょ?
「……ええ、本当に素敵な「お宝」でしたね」
でしょう?
私、これからもこのお仕事続けたいわ。
もちろんお支払いは「財宝払い」で!
―――――――――――――――――――――――――――――
次回から「回復屋さん」の物語が本格的に始まります。
いろんな「お宝」があふれるお話をこっそり覗いてみませんか?
―お知らせ―
私事なのですが、生活がすこし苦しいのでしばらくの間は毎週木曜日更新に。
感想など頂けたらとっても嬉しいです。
よかったらあなたの感じたことを私にも教えてくださいね。
(必ずお返事します!)
―お知らせがもうひとつ―
新章突入を記念して、今までのお話の一部を大幅に加筆修正しました!
(4話から13話まで)
いつも読んでくれてありがとうございます。
これからもとっても頑張りますのでっ!
――白木凍夜
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