第12話「王子さまは来ない」

 目の前にいるクリスティ―ナの呼吸が、どんどん小さくなっていく……。


 でも、大丈夫。


 私の回復スキルですぐに治してあげるからね。


「いたいのいたいのとんでけー!」


 これでだいじょ……治ってない?


 ええと……もう一回っ!


「いたいのいたいのとんでけー!」


 ……?


 どうして治らないの?


「お、おそらくですが……。

 体の内側の損傷があまりもに酷いので、見た目ではあまり変わらないのかもしれません」


 ……難しいお話はちょっとわからないけど……もっとスキルを使えばいいってことかしら?


「まあ、そういうことだろうな。

 内臓の働きから考えて……まず、頭……次に、下半身、上半身と治していったらどうだ?」


「私も同感。

 心臓が弱まっているのは逆に都合がいいわ。

 これ以上出血したらたぶん、命にかかわるもの。

 大きな傷を先に塞いでから心臓を治さないと……って、男の冒険者は入ってくるな!!」


 周りにいた冒険者さんたちが、次にどこを回復したらいいのかみんなで教えてくれる。


 冒険者さんってやっぱり頼りになるのね……えっと、まずはお腹の……下……このあたりね。


「いたいのいたいのとんでいけー!」


 次はもう少し上なのね?


「いたいのいたいのとんでいけー!」


 今度は……。


「いたいのいたいのとんでいけー!」


 次は、次はどこを……。


「……だめだわ。

 見た目に回復スキルの影響がまるで出てない。

 内臓の損傷が想像以上に酷すぎる……生きてるだけで奇跡ってレベルだわ」


 大丈夫……もっと回復スキルを使えばいいんだ、もの……。


「いたいのいた……ぐっ、げほげほっ!」


 んぅ!?


 ど、どうしかしら……とっても喉がいたいわ……。


 あ、ごめんねクリスティーナ。


 今すぐ治してあげるから……。


「いたいのいたいのとんでいけー!」






 ――


「お、おい!

 誰か止めてやれよ……あのままじゃあの子倒れちまう!」


「ならお前が行けばいいだろ!?」


「そ、そんなこと……出来るわけねえだろうがぁ!!!」


 ぜえ、ぜえ……け、ケンカしちゃダメよ?


 大きな男の人がケンカしたらクリスティーナがびっくりしちゃうわ。


「「す、すまん……」」


 いいこね。


 だんだんクリスティーナの怪我も少なくなってきたし、あともう少し……がんばらなくちゃ!


「いたいのいたいのとんでけー!」


 ……。


 あとは……、あとはどこを治したらいいの?


「ちょっと待って……お疲れ様。

 無事に治ったみたい!」


 よ、よかった……けほっ、けほ……。


「す、すげえ……あの大怪我を本当に治しちまった……」


「あんなの上級ポーションでも確実に助からなかったぞ!?」


「ていうか、あれってオルゴノット家の……なわけねえか」


 もう大丈夫だからおうちに帰りましょうね、クリスティ……え?


「あなた、新人なんでしょ?

 大したものね。

 よかったら私たちの仲間に……あ、ちょっと待って、これは……!?」


 え、どうしたの?


「……まずいわ。

 魂にも損傷が出てるみたい……このままだと多分……。

 に、二度と意識が戻らないでしょうね……」


 大変だわっ!


 じゃあ、もっと回復しないと……けほっけほ。


「ちょっと待て、お前さっきから声が出てないぞ?

 みせてみろ……だめだな、喉が完全につぶれてる……自分の身体は治せないのか?」


 やったことないからわからないわ。


「何言ってるか全然わかんねえが……多分無理って言いたいんだな?」


 そうよ……あら、私っていま声が出てないの?


 えーっと、さっきまではたしかこんな感じで……んぐぅっ!? げぅ……げ、ゲホゲホっ!!!


「だから喉がつぶれてるって言ったろ?」


「無理もないわ……この子、ずっと必死に回復スキルを唱えてたんだもの」


「かひゅ……か、かひゅ!? かひゅふっ!!」


 どうしてっ、どうして回復スキルが使えないの!?


「残念だけどここまでね……教会に連絡するわ。

 多分……無駄だと思うけど……」


 だ、大丈夫、今すぐ治してあげるから……かひゅー、けぷっ、けほっ!


 ほらっ、できて……ない?


 ……大丈夫!


 できるっ、すぐに治せるからっ、お願いっ! 目を開けてクリスティーナ……!!!


 お願いだから……ぐすん。


「な……何してんの……よ?」


 ……どうしよう、このままじゃクリスティーナが……!


 でも、クリスティーナは可愛いもの……ぐすん。


 きっと王子様が来てくれるはず……そうでしょ?


 ……。 


 ……まだ?


 …………まだなの?


 ………………まだ来てくれない……かひゅ! だめ、やっぱり回復スキルは使えない……ぐすっ。


 でも、きっと王子様がすぐに……え、なんで手当をやめちゃうの?


 みんな手伝ってくれるんでしょ?


 まだ、クリスティーナは起きてないのよ?


 何でそんな顔でこっちを見るの?


 かひゅ! かひゅうひゅふっ!!


 王子様! 王子様早く来て!!


 あなたのお姫様はここ……ここ、なのにっ……ぐすっ。


「だか、ら……何してんの……よ、あん……た?」


 その声は……り、リリアーナ!? いったいその怪我どうしたの!?


「私のことは……いい、わ。

 それよりあ……なたの、回復スキルはそれ……で、おわ、り?」


 え、どういうこと? だって、もう声がでないのよ?


「い……い?

 大切なの、は、いめっ、ジ……よ」


 いめっ、ジ? ……イメージのこと? でも、さっきからやってるけどだめなの!


「声にたよった……いめ、じだからよ。

 違うほうほふて……」


 違う方法って何のこと!? わたしそんなのわからない!


 イメージって想像するってことでしょ? 


 私、こんな時にどうしたらいいかなんてわからないわ。


「あんた……本、よむ、ん、しょ?」


 ……本? 


 本は読むけど……こういう時は王子様が来てねっ、女の子にキスをしたらそれで解決しちゃうからまず、王子様が来てくれないと…………あ。


 私が王子様になればいいんだ!


 寝ている女の子にあんなことするなんて、きっと王子様じゃなければ許してもらえないのかもしれないけど……。


 でも、私はクリスティーナに眼を開けてほしいの。


 ごめんね……絶対に責任取るからっ!


(目覚めのキス!)


「ん……ちゅっ。

 あ……、ユーリ、様……?」


 クリスティーナ! よかった、起きてくれたのね!?


「やる……じゃん。

 どうや、った……の?

 わたしも、おね、がいする……わ」


 リリアーナ! 大変っ、あ、でもっ、「これ」って起きている女の子にも効くのかしら?


 つんつん……あ、意識を失ってるみたい。


 ちゃんとあなたにも責任取るから……ちゅ。


 あ、効いてるみたい。


 じゃあこのまま……ちゅっ、ちゅっ……。


 ぷはっ。


 これでもう大丈夫ね、もぎゅ。


 ……もぎゅ?

 

 これって……もしかしてリリアーナのお胸?


 リリアーナってこんなにお胸大きかったのね……もぎゅもぎゅ。


 ……でも、私これからどうしたらいいの?


 二人分の責任なんて、いったいどのくらいになるのか想像がつかない。


 でも、何とかしないと王子様が私を……。


 ……。


 リリアーナっ、クリスティーナっ、お願いっ、どこか遠いところへ私を連れて逃げてっ!!!



 このままじゃ私っ、きっと本当の王子様にやっつけられてしまうわ!!!

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