第177話 佐伯挺進隊と山下奉文司令官
ハワイオアフ島、ワイアレエビーチに第一陣で上陸したのは大日本帝国陸軍第25軍、第5師団である。
第5師団は総数約1万5000名、中国大陸での戦闘経験を重ねたベテラン揃いの最精鋭部隊である。
強襲上陸第一陣は数隻の大発が撃破され、更に上陸後の突撃でもアメリカ軍トーチカの攻撃もあり数百の兵が死傷したが、戦艦大和以下の苛烈なる艦砲射撃と誤爆を恐れず、日本刀を振りかざして突撃する兵の気迫は凄まじく、アメリカ兵は次々と降伏したのであった。
敵の妨害を一掃してからは、大発はピストン輸送して兵を、戦車を、大砲を次々と上陸させ、海岸線に続く陸地は兵と物資で混乱の渦と化している。
そんななか、少し離れた平野において、いち速く部隊の整列を終えたのは、第5師団、捜索第5連隊所属、佐伯静夫中佐が率いる佐伯挺進隊である。
佐伯挺進隊は、精鋭を誇る第5師団から選抜された、真のエリート部隊であり、その戦力は3個中隊約600名、更に九七式中戦車1個小隊3両、九五式軽戦車2個小隊6両、九〇式野砲2個小隊2門、工兵1個小隊、通信隊と衛生隊等が増強編成された超攻撃型特殊部隊であった。
全員が整列しているなか、佐伯静夫隊長が厳かに中央に歩み寄る。
大隊長は中央の位置に着くと、美しい所作で左腰の日本刀を抜刀する!
その刀身はキラキラと光を反射して付近一帯を照らし出す!
日本刀による指揮、これこそが世界唯一、大日本帝国にのみ可能な指揮能力の効果付与である!
既に軍刀を抜刀している最右翼の第一中隊長は、号令を掛ける!!
「気を付けェェ!!」
座座座座!!!
「大隊長殿にーーーーーー!!敬礼!!!」
「かしらーーーー!!中!!!」
全員が頭を大隊長に向ける!!
「なおれ!!」
一瞬の後、第一中隊長は陸軍礼式で定められた刀剣礼を行う!
軍刀の剣先を垂直に上げ、刃面を顔の中央に揃えて大隊長に敬礼!そして刀剣を右斜めに下げて捧刀する!
大隊長も同様の所作で答礼する!!
「第一中隊、総員200名事故5名!!現在員195名!!各小隊ごと番号!!!」
「一!二!三!四!五!六!七!八!九!十!・・・・・・!」
「事故5名にあっては戦死2、負傷3!!!」
第一中隊長は再度大隊長に敬礼する!大隊長は答礼!!!そして第二中隊長に正対する!
第二中隊長は大隊長に敬礼する!大隊長は答礼する!!
「第二中隊、総員200名事故なし!!現在員200名!!各小隊ごと番号!!!」
「一!二!三!四!五!六!七!八!九!十!・・・・・・!」
「異状無し!!!」
第二中隊長は再度大隊長に敬礼する!大隊長は答礼する!!
第三中隊も続いて報告を終える!
全中隊の点呼が終わり、全員の視線が大隊長に集まるなか、佐伯静夫隊長はそれを受け止め、その全員を見渡す。
佐伯静夫隊長は44歳、痩身で引き締まった体躯、目鼻立ちが整うイケメンであるが、その表情は引き締まり、眼光から溢れる気迫は熟練兵達ですら震え上がる。
元々騎兵連隊長であったが、騎兵廃止に伴いその行動力を買われて挺進隊を命じられた経緯をもつ。
生粋の騎兵隊長は、整列を終えた部隊を見渡し!声高らかに訓示を行う!!
「皆!この度の上陸戦で、我々挺進隊も死傷者が出た!第一中隊、第一小隊の髙木兵長と田村二等兵である!!大発での突撃中、敵の銃弾を受けたのだ!!」
「しかし!!!諸君は見ただろう!!血に染まった海岸線を!!仲間たちの姿と、戦場の臭いを!!我が軍がこれだけの損害で済んだのは、彼ら第一陣が盾となってくれたからだ!!」
全隊員の目付きが変わり、纏う気迫が更に更に高まる!!
「さあ!!次は我々の番だ!!そのために我々は選抜され!誰よりも厳しい訓練に耐え抜き!!最強の装備と、砲と!!戦車も与えられたのだ!!!よいな!!我々第25軍第5師団、捜索第5連隊が賜った陛下の勅令!そして山下司令官からの命令は、ハワイの解放である!!
此れより我々は特別に賜った日本国旗とハワイの王国旗を掲げ、突進する!!突進にあたっては!一車が止まれば一車を捨て!ニ車が止まればニ車を捨て!友軍であろうが!敵であろうが、乗り越え踏み越え突進ができなくなるまで突進せよ!!!」
即座に第一中隊長が号令を掛ける!!
「気を付けェェ!!」
「大隊長殿にーーーーーー!!敬礼!!!」
「かしらーーーー!!中!!!」
全員が頭を大隊長に向ける!!
「なおれ!!」
佐伯隊長は、日本刀を高く掲げる!!
「全軍!!前えぇーー!!」
ザッ!!座座!!
大隊長の予令で、二人の旗手は大きな日本国旗と、ハワイ王国旗を高く掲げる!兵は機敏な動作で銃を右肩に担ぐ!
「進めぃィィ!!」
佐伯隊長が日本刀を振り下ろす!
即座に第一中隊長が命令する!
「第一中隊!前ぇ!進めぃィィ!!」
「一!一!一、二!」「ソウレ!」
「一!一!一、二!」「ソウレ!」
「歩調!歩調!歩調!」「ソウレ!」
「一!!」「ソウレ!」
「二!!」「ソウレ!」
「三!!」「ソウレ!」
「四!!」「ソウレ!」
「一!!」「ハイ!」
「二!!」「ハイ!」
「三!!」「ハイ!」
「四!!」「ハイ!」
「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」「一!二!三、四!」
「我ら佐伯挺進隊!!」「佐伯挺進隊!!」
周囲では続々と集合中のほかの部隊が見送るなか、佐伯挺進隊は整然と、大音量の声出しをしながら出陣してゆく!!
「頑張れよ!!」
「俺たちもすぐに続くぞ!!」
「頼んたぞ!!」
「駆け足ぃ!」「駆けあーし!!」
「進め!!」
「一!一!一、二!」「ソウレ!」
更に佐伯挺進隊は加速してゆく!!
威力捜索と南進攻撃が始まったのだ!!
その後佐伯挺進隊は、偵察尖兵、尖兵中隊、前衛本隊、本隊の順に間隔を取り、防衛線が整わないアメリカ陸軍部隊を次々に強襲した!!
その一糸乱れぬ行軍と戦闘行動の練度はアメリカ軍ですら圧倒する。
日本海軍航空隊のパイロットが綺羅星のようなベテランパイロット揃いならば、日本陸軍の兵も幾多の戦場を渡り歩いてきた精兵集団なのだ。
要するに、この当時の大日本帝国軍は、大和民族が秘めた戦闘民族としてのDNAを覚醒させ、世界を圧倒するレベルに達していたのである。
佐伯挺進隊は、まるで戦場のジャンヌ・ダルクのように日本旗とハワイ王国旗の二旗を掲げながら、海岸沿いを一気に爆走南進した。
本来の軍旗といわれる日章旗は天皇陛下から親授を受けるもので、天皇陛下の分身として極めて丁重に扱われ、連隊旗手のみが掲げることを許されるものだ。
しかし本作戦においては、日本国旗とハワイ王国旗の二旗を掲げることで、ハワイの解放のためというメッセージをアメリカ住人とアメリカ軍に与えることを目的としているのだ。
対するアメリカ陸軍は防御体制が整っておらず、佐伯挺進隊と接敵しても鎧袖一触で撤退するか、又は二旗を見て降伏する状況であり、抵抗の予想された第一目標、ハレイワ地区陸軍航空基地も抵抗は微々たるものでほぼ無血開城となった。
ここで降伏した兵のなかに、オアフ島日系人部隊数百名が居た。
彼らは約1年前に編成されたハワイ移住日系二世の部隊であり、海岸線警戒に当たっていたところを佐伯挺進隊と遭遇することとなった。
同部隊は徹底抗戦するか否かで激しく意見が別れていたが、戦力差が圧倒的不利であったこと、そして最終的に日本国旗とハワイ王国旗の二旗を望見し、祖国とハワイのためなら戦う理由が無いとして、次々とその銃を下ろしたのであった。
ハレイワ地区陸軍航空基地を攻略した
佐伯挺進隊は内陸部に進軍、アメリカ陸軍スコフィールド基地の手前で苛烈な抵抗を受け、強固な防御陣地を確認すると一旦引いて山間部に陣地を構えた。
その後日が沈み、夜間のうちに続々と後続部隊が戦場に到着し、順次布陣を整えているところ、第25軍司令官、山下奉文中将以下の司令部要員も夜明け前には戦場に到着した。
山下司令官は、司令部門が後方に位置させることを良しとせず、危険を省みず主力部隊と共に行動することで、将兵にその覚悟を示し、迅速な状況把握と的確な指揮を目指したのである。
山下奉文司令官は55歳、西郷隆盛のような風貌で、頭の切れるのは当然のこと、特筆すべきは度胸の座り具合は陸軍随一といっても過言ではない豪胆沈着な漢である。
早朝かわたれ時、山下司令官は、仮設テントから身を出し、雨が降りしきるオアフ島の夜明けの空を見上げた。
その空はグレーに染まり、高度1800メートルから降りしきる雨粒が、山下司令官のいかつい顔を打つ。
司令官は無表情で濡れた髭を撫でると、振り向いて軍用煙草を取り出し咥える。
側に控えていた衛兵が手際良くマッチに火を付け、少し俯いた司令官の煙草に火を付ける。
吹ウウウウウゥゥゥ
仮設テント内に、新しい紫煙の臭いが流れ込む。
次に奥から顔を出してきたのは鈴木宗作参謀長である。
「雨模様ですな。航空支援が得られない可能性があります。」
鈴木参謀長も空を見上げて話す。
「うむ。」
山下司令官は答える。
「手筈通り、降伏勧告の使者を出します。」
「うむ。」
山下司令官は答える。
「迂回部隊は山岳地帯に入っております。3時間後には攻撃位置に付く予定です。」
「うむ。」
「佐伯中佐の報告によれぱ、敵は防御を固めてやる気のようです。降伏勧告は当然受け入れないでしょうが、時間稼ぎにはなるでしょう。」
「うむ。」
「アメリカ軍の防御線はここのみのようです。ここを落とせば一気にホノルル陥落、いや解放ですな。残りのダイヤモンドヘッド要塞など、大和がおれば岩の墓標にすぎません。」
「うむ。」
「参謀長」
「はっ」
「飯だ。盛大に炊飯の煙を炊くんだ。ありったけの飯を炊け。」
「ありったけですか?通常ではなく。」
「全部炊け、全部だ。使者もその飯を腹いっぱい食わせてから行かせろ。我々の兵力が大軍であると思わせるのだ。」
「なるほど・・・流石は司令官!戦国時代もそのような戦法がありましたな!!!」
「飯を腹いっぱい食えて、兵の士気も上がり、敵は騙されて浮足立ち、士気が下がる。一石二鳥ならぬ、一飯四得よ。」
「流石です!司令官!まぁ・・・唯一の欠点は、昼飯が無くなることですかな!」
「フフフ、そのときはそのときよ!!なに、この戦が天下分け目の決戦となる!!この戦に勝利し、眼下に真珠湾を捉えたときこそ、日露戦争で二百三高地を落とした乃木希典将軍率いる第3軍に勝るとも劣らない軍功ではないか!」
「はっ!そのとおりであります!」
山下奉文司令官は、灰皿に煙草を押し付けて捨てると、テント内の全員を見回して伝えた。
「諸君。知っての通り私は昔、天皇陛下の御不興をかってしまったことがある。そのことを忘れたことはない。そしてついに天皇陛下に忠義を示すときが来たのだ!!この命いつでも投げ出す覚悟はできておる!!諸君!!天皇陛下のために戦おう!!」
「ハッ!!天皇陛下のために戦います!!」
「天皇陛下!そして大日本帝国に栄光あれ!!!」
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