第165話 那須と神鳥谷

オアフ島南西約250キロ地点の海上。


落日の光がキラキラとハワイの海面を照らし、波に乱反射して世界は碧橙色に染まるなか、異彩を放つ鈍色の要塞群があった。


神が定めた、海と空という世界において、人類が示した最強の攻撃力。

大日本帝国海軍、空母機動部隊である。


その力は遥か西に位置している八百万の神々からのメッセージであり、静かに、穏やかに佇むハワイの、ミクロネシアの神々を強烈に叩き起こす新しい力である。


その旗艦、空母赤城。元々は重巡洋艦としての建造であったために、命名基準に則り、赤城山の名前を冠している。

空母加賀は同様に、元々は戦艦としての建造であったために、加賀国の名前を冠している。


赤城の飛行甲板上には、二人の男がずっと、沈みゆく東の空を見詰めていた。

 

その二人に向かって近づく人影が一つ。制空隊隊長、板谷茂少佐だ。


「那須一飛曹。神鳥谷一飛兵。」


「はい。はい!」


「もうじき日が暮れる、戻れ。」


「はい・・・・」


「那須は、中華戦線からか?」


「はい。初陣からです。何度も助けてもらいました。」


「・・・そうか。」


「あいつを信じろ、淵田隊長によれば、有利に戦っていたそうじゃないか、何かあったにせよ奴は簡単に死ぬタマじゃない。十中八九オアフ島に不時着して潜伏しているだろう。オアフ島を開放すれば必ず会えるよ。」


「むしろ、奴のことだから今頃現地でゲリラ活動を始めてるかもしれん。」


「ハハハ!確かにその通りです!新海少尉は元々陸軍ですからな!普通じゃない!」


「我々も早くオアフ島に上陸したいですね、陸軍の上陸部隊はうまくいっているのでしょうか?」


「うむ、偵察から戻った報告によれば、順調に進軍しているそうだ。早ければ明日は地上決戦になる。我々も爆撃で支援するが、その爆弾が残り少ない、ここで必ずオアフ島を落とさねばならない。」


「はい。」


「わかったら、明日に備えて休め、飯はもう食ったか?」


「はい。」


「ワハハ!さすがお前等はベテランだよ!やることはやる。そうでなくてはな!」


「新海少尉は大ベテランだ!もしかしたら、現地のおなごといい感じになってるかも知れんぞ!」


「少佐!新海少尉はそっち関係では本当にうぶですよ!手も握れないどころか、話すことも出来ません!新兵のがマシなレベルですよ!」


「そうですそうです!」


ワハハハハ!!!


「ん?ちょっと待てオイ神鳥谷、お前はアヒルちゃん命なんだから、笑う資格ないだろ!」


ワハハハハ!!!


「クゥ〜失敗したなぁ〜言わなければ良かった。」


ワハハハハ!!!


「よし!オアフ島に上陸したら、女の子に声掛けようぜ!新海少尉も一緒にな!!」


「はい!」


こうして3人は飛行甲板を後にするのであった。






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