第146話 戦乙女
アメリカ太平洋艦隊旗艦、バトルシップ、メリーランド。
名付けはメリーランド州からきているが、ファイティング・メリーという愛称で親しまれている。
メリーとは西欧でマリアの意味があるため、戦乙女マリアということだ。
そう、見た目は武骨ではあるが、アメリカ太平洋艦隊の旗艦は、戦乙女なのだ。
日本の神と、アメリカの戦乙女の打ち合いは幕を明け、戦乙女マリアの主砲45口径40.6センチ二連装砲塔四基、計8門は既に5射目を終えている。
艦橋では、ウィリアム司令官が葉巻の煙を吐き出しながら双眼鏡を構えている。
「impact!!」
弾着報告とともに、敵先頭艦の付近に水柱が上がる!!
「夾叉したか!?」
ウィリアム司令官が聞くと、観測員が答える。
「いえ!全弾手前です!約400メートル!」
「シィット・・・」
思わず観測員を怒鳴り付けたくなったが、歯をくい縛りこらえる。
次の瞬間!
図座座ッ射アァ!図座座射アァ!図座座座座ッ射アァ!!!
凄まじい水中炸裂音!!そして高々と上がる水柱!!至近距離までは至らないが、前後左右に水しぶきが上がる!!
艦橋内の数人が叫ぶ!!
「夾叉された!」
現実に夾叉されると、その水柱の偉容と迫力に全員が驚愕する。
「あんなに高く上がるのか・・・」
命中弾を受けたときのことを想像すると、とても生き残ることが難しいように思えてくるのであった。
「・・・・・・・」
ウィリアム司令官が黙り混んでいると幕僚長が提案してくる。
「司令官!現状では発砲しているのは当艦のみですが、敵は4艦が発砲しています。メリーランドとはいえ明らかに不利です。ここは面舵回頭し、テネシーとペンシルベニアの射程距離まで接近してはいかがでしょうか。」
「ふむ、確かに。しかしここで右回頭すれば不利な隊形となろう。」
「はい、確かに一時的にT字形となり不利になりますが、相互の距離は30000メートルですから、変針で相互に大幅な再計算が必要になります。敵艦の散布界も修正まで数射必要となるため、当たらないでしょう。」
「確かにな。こちらは未だ夾叉しておらんし、遠すぎるか。」
「はい、後続が何も出来ません。」
「しかしあの敵の先頭艦、あれは何だ?精度も威力も高そうではないか。ナガト型で間違いないのだろうな?あれだけの艦を建造していたのだ、もう少し情報はないのか?」
「ハッ、照会したところ、ナガト、ムツは東京湾にいるのは確かであります。ナガト型3番艦との情報に変わりません。主砲は当艦と同等の40.6センチ砲です。」
「そうか、最新鋭のナガト型なのか。するとファイティング・メリーと比較するとどうだ?」
「はい、日本はそもそも製鉄技術が低く、戦力比較では、公称の口径は同じでも、砲弾の威力、射撃速度、そして防御力は当艦が上であります。唯一劣るのは、速力であります。」
「速力か、しかし速力を犠牲にして防御力を高めるのが我が海軍の伝統だからな。そこはやむを得ん。」
「はい、調査結果では敵の40.6センチ砲は、当艦のバイタルパートを貫くことはできません。当然後続の戦艦3艦の36センチ砲などは当艦の装甲を貫くことは出来ないものと思われます。」
「ふむ、そうだな。注意しなければならないのは敵の先頭艦のみ。それ以外はジャップの軟鉄戦艦か。」
ウィリアム司令官は葉巻を吸い込み、その味を堪能しながら数秒間考えると、艦橋内の全員に告げる!
「よし!艦列は当艦に続き、面舵一杯!100度まで回頭する!敵艦列の後方に回り込みつつ、距離20000メートルまで接近する!」
「イエッサー!!面舵一杯!!100度まで回頭!!」
操舵手が面舵を取ると数秒後!
グググググッ!
周囲を敵弾の水柱が次々と立ち上るなか、ヴァルキリーは堂々と右旋回を始め、日本の神をその正面に捉えた!
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