第10話

「みぃちゃんは、人が話しかけると必ずお返事してくれるんです。貴男がみぃちゃんに話しかけた時もきっとお返事してくれた筈ですよ」

「みぃちゃんはとても賢い子です。飼い主の要くんと、一時的にでも飼い主だった貴男。きっとみぃちゃんにとってはどちらも大事な存在だと私は思うんです。そんな二人が睨み合って喧嘩して、それでみぃちゃんが喜ぶと思っているんですか?」


薫さんは悲しそうに俯いたまま。言葉を発さない。抱かれている私は、薫さんの身体が僅かに震えているのが分かった。

要も、ミツの言葉に少しバツが悪そうに俯いた。


私は泣いている薫さんの頬に頭をぐりぐりと押し付けた

薫さん、元気出して、泣かないで。

また、きっと会えるよ。


そう伝わるように私は「みゃう」と鳴いた


「はは、猫ちゃん…慰めてくれてありがとう。ごめんね、飼い主さんから引き離そうとして。ごめ…んね…っ」


要が此方へ近付いて、手を伸ばす。

私は名残惜しくも有る薫さんの腕の中から、飼い主への腕の中へと移動した

薫さんが此方に背を向け帰っていく。その背中は、凄く寂しそうで私は小さく「みゃぁ…」と思わず鳴き声が洩れる


「さ、帰ろう。要くん、みぃちゃん」


そういうミツは歩き出した。しかし、要は反対方向、薫さんの方向へと私を抱えたまま走り出した。


「え、ちょっと!要くん!?」


慌てたミツの声が後ろから聞こえる。

要は薫さんに追いつくと「あの…!」と声を掛けた


薫さんは驚いた表情で要を見詰めている。まだ止まらない涙は薫さんの頬を濡らしている

要は携帯を取り出して、少し操作した後


「連絡先交換しましょう!俺、電話番号言うんで登録しておいてください」


「えっと、どうして連絡先を?」


いきなりの要の発言に薫さんは首を傾げつつも、二人は連絡先を交換した。




「えー…俺、田原 要って言います。さっきは怒鳴ってすみません。」


「此方こそ、飼い主の貴方から奪うようなことしてすみません。僕は光城 薫です。所で、なんで連絡先を…?」


「薫さんが帰るとき、みぃちゃんすげぇ寂しそうに鳴いたんすよ。だから、薫さんさえ良ければ是非いつでもみぃちゃんに会いに来てほしいです。きっと…いや、絶対みぃちゃん喜ぶと思います!」


「…本当に、良いのかな。僕はその子と要さんを引き離すような事したわけだし…」


「じゃあ、みぃちゃんに聞いてみませんか?」


「聞く…?」




「みぃちゃん、薫さんと会えなくなったら寂しいよな。偶には会いたいだろ?」



要と薫さんの話を聞いていた私は、勿論!と心を込めて「みゃぁ!」と元気よく返事を返した




「この子は本当に言葉が分かるのかな…。いいお返事だね、ありがとう。じゃあ是非今度会いに行こうかな」


「はい!いつでも待ってますんで!」


それから二人は別れ、私はまた以前の様に飼い主の元で暮らすことになった。


一番変わったのはミツだ。何故か私に少し優しくなった。

嫉妬の視線は今でも偶に感じるけれど、以前の様な刺々しさはなく、やきもち程度の可愛いもんだ。


そうして、私はやっと平穏で自由気儘なスローライフを…{ピンポーン}


…スローライフを{ピンポーン}


えっと…スローライフ…{ピピピピンポーン}


送れる気がしない…

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